南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

西安見聞路の旅 5:五丈原

7時半の列車なので、余裕を見て6時過ぎ、兵馬俑よりも早くYHを出る。南门はまだ薄暗くて、603のバスもちゃんと来るか心配なほど交通量が少なかった。バスがなければタクシーを使うつもりだったが、さすがにその必要まではなし。候车厅は帰路のときのしか覚えていない。西安-宝鸡間の小都市へ帰省する客で席はきっちり詰まった車内は、はじめは外なみに寒かったが、次第に多少温まってくる。ほぼ定刻に発車した列車はしかし、後方からの列車に追い越されたり、Lも7000番台(関係ないか?)のため兴平など普快でも停まらないような小駅にも停車する。まさにローカル列車の旅である。まったりしていて、ふと気がついた。この列車、駅に到着してもアナウンスがない。蔡家坡の到着時刻を正確に知らない私は、降りそこなう恐れがあった。ピックアップした候補列車の所要時間から計算して、大体このくらいで着いた駅に降りようと決めた。列車の遅れもあるから随分不確かであるが。蔡家坡はこの区間では3番目に大きい駅*1であるから、下車も相当多いだろうと目安にする。そうして、10時過ぎに降車客が通路に集まりだした頃、これだっとばかりに席をはずす。もうホームに降り立って線を越えて改札口を目前にするまで、心臓バクバク冷や汗タラタラ、気が気じゃない。途中下車だったらこの先どうしようと思った。改札寸前で振り返って、降り立ったホームの駅名板に蔡家坡と書いてあったとき、力が抜けた。おかげで切符は没収(関係ない)。

蔡家坡

出站口から左手へ切符売り場直行。表の掲示にて午後4時ごろを見ると、案の定Lがある。前後の人も皆これを買うので、まったくスムーズな購買になる。〔列車情報:L7356次 蔡家坡16:32発-西安18:07着 无座15元〕 往路との差額5元は手数料ではなくてエアコンの有無である。これで帰りの交通は確保された。問題は諸葛亮廟へ行って、発車時刻までに帰ってくることである。
駅は北向きで、駅前から少し東へ行ったところに镇の中心街がある。市場や屋台が張っていて賑やか。駅の近くにバスターミナルがあって、そこから陕汽行きのバスに乗ると記憶してきた。バスターミナルはどこにあるんだろう。市場の中に公交が停まっているけれど、まずは自分の足で歩いて調べてみよう。三輪などが通る狭いガードをくぐって線路の南側へ。まずガード口のところで焼き芋を食べて一休み。バスターミナルなら普通、鉄道駅と結んで人が往来しているはずだ。人の流れに附いて線路伝いに西へ行ったら、いつのまにか人が消えた。住宅地を縫って広い通りに出ると、汚い排気のトラックの往来が激しい。が、同時に宝鸡などの札を掲げた長途バスも見ることができる。これは手がかりになる。見極めて東方向に歩き、新市街?の交差点も越えてひたすら進むと、真新しい蔡家坡汽车站*2に行き着いた。さっき駅前で見た公交も停まっている。さすがにここまで歩いてくる人は少なく、三輪を使っていたようだ。
ところが苦労して見つけた汽车站も、結局利用せずに終わる。理由は、不確かな乗車路線に不安があったのと、歩いても行けないことはない距離だった。何なら帰りだけ、行きずりのバスを停留所で拾えば済むことだ。駅から5〜10kmと読んできたが、まぁ実際よく歩いたもんだ。

五丈原

汽车站を過ぎて最初の大きな交差点を南に、いよいよ五丈原への一歩を踏み出す。修理工などが並んだ通りが切れると、渭河を渡る橋。一応歩道もついてるし、中国に流れる河を渡るとしては意外なほど長さのない橋*3だ。中国全体にしてみれば「上流」にあたるからだろう。渡った先はゆるやかな上り坂になっていて、また徐々に人やバイクが集まり始め、やがて五丈原镇に着く。十字路の北東角にミニバスが停留している。疲れ果てたら、ここからバスに乗れると思った。とりあえず镇には達したが、ここからどの方角に景区があるのだろうか。南か南東と見当をつけて、十字路をそのまま直進。まもなく商店が消え失せ、静かな工場や廟のように彩られた怪しげに朽ちる建物が迎えるようになる。この辺は、あぁなんかもうダメだなと内心諦めかけていたものだ。そんでいきなり突き当たり。でもたしかね、ここに見落としそうな道標で诸葛亮风景区の左方向指示があったはず。少なくとも神の御告げがあった(ぉぃ。日本でいえば町道のような道で、小さな集落をひとつ抜けるとたぁっと下って、交通量の多い道(省道級)にでる。バス停が片隅に立っている。そして、
道の向こうに道標ありき*4。バスの場合ここで降車するんだったのな。また新たな集落に踏み入ると、三叉路。ここには間違いなく风景区の案内板と右方向への指示がある。ただし、今後訪れたい人の為に先に案内しておくと、実は左へ進んだほうが良い。進んで、右手に神社の参道のようななだらかな坂道が現れるから、そこを入ってしばらくすると急な階段に変わるが登りつめると诸葛亮庙の前に出る。さきの案内板は車で来た人のためで、徒労したくない人は従わない方が良い。この近道は帰路により知ったのであって、往路はひたすらつづら折りの舗装道路を汗までかきながら登ったのであった。乗用車はいいが耕耘機にまで追い越されたのは癪であった(笑。んでも、途中一服しながら見下ろす地形はまた面白いものだね。
そうそう、五丈原は本来五丈塬(地図などによってはこう表記するものもある)と書く。塬とは、黄土高原地帯に多い、雨に押し流されてできた、頂上が平らな土地をいう*5。ひとつの塬を登りながら、もうひとつの塬との間にできた谷を見下ろすといった感じかな。

五丈原风景区(诸葛亮庙)

駐車場(ここにもバス停が設置されているが、実際に登ってくることはなさそう)から、庙の正面に回りこむ形になる。この時期としては少し寒いけれども、神社の境内のように木陰になっていて、また北方向へ見晴らしも良い風景区。门票20元。管理員などが春節の準備をしている。正月前に吉備津神社を参ったとき*6と似ている。
三国時代、蜀の宰相であった諸葛亮は、勢力的に劣る蜀を率い、この地で5度にわたって中原を抑えていた魏に戦いを挑んだが、大志を果たすことなくここで病没した。昨夏に訪れた南阳武侯祠は諸葛亮の卧龙の地であったが、今度は才智を活かして敵と対峙しながら最期を迎えた地である。廟を入ってすぐ諸葛亮らの像(ふつう劉備など蜀軍の英傑をさしおいて子弟が左右にならぶ)。ほかに2人ほど参観者がいるし塑像なので、名前まで気に留めていなかった。でも田舎の、ここしか見るところのない景点ながら、割と像の手入れがいっていると思った。
像といえば、八卦亭だろうか廟西側(左手)の迷路のようになった建物を入ると、暗い通路から突然塑像の並んだ空間が現れ肝を冷やされる。ただでさえ日の光も射さない照明もない通路は、足元に穴でもあいていたら、とビクビクものなのに、カッと見開いた目の塑像に出くわすのはまるでオバケ屋敷である。最後は携帯電話のバックライトで照らしながら抜け出した。
南阳武侯祠と同様に、岳飛の刻んだ前・後出師表もある。それから、区内でちょっと目立つものに、井戸ではなくて衣冠塚というものがある。これは民衆によって忠臣ぶりを称えられ、その遺体に衣類をかけられたところらしい。それが積もり積もって塚ほどまでになった(?)というのだが、要するに墓と見なしてもいいのだろう。こんもりとした土山と碑が残っている。
風景区と称するとおり、渭河を挟んで両岸せまる山々のもとに人家が集まっている光景も面白い。景区の真北はまた新たな谷が東へのびており、渭河をじかに望める部分は多くない。帰路にかかる時間を計算しながら、暫し脚力を温存する。

楽して得して帰る

足はいいが腹がすこしヤバイかなと思い、バスを待ってみむとす。が、待てど暮らせど一つも来ないので、そのまま路線伝いに歩く。右手は渭河支流の川。左にずっとカーブしていき、砂埃を上げるトラックの通行が激しくなり、商店や露店が増えて五丈原镇のあの十字路に出る。時間的にも体力的にも不安が感じられたので、客待ちをしている三輪タクシーに声をかける。もう一人、大きなバッグを抱えた若造が同乗するかに見えたが、値段に不満だったらしく最終的に乗ってこなかった。私一人でも駅まで10元に文句はない。それどころか、この全封闭三轮汽车と呼ばれる、三輪軽自動車に乗ることが来中よりの熱望だったのだ。开封で乗れる、農業用三輪バイクを改造したのや電動のもすばらしいと思うが、完全に軽自動車の形状をした前部席2人確保の4人乗りタイプの方が完成度は高い。ときどき日本人のサイトでこれの画像などを見かけることもあるが、安全性など一様に評価が低い。私は此れは日本でもイけると思うのだが。じっさい、乗ってみると安定感もあって、操作も普通車と同じで、好感度は上昇の一途。車は、陇海铁路を跨いでスロープを左旋回し、蔡家坡镇を突っ切って到着。有難うござんした。
改札まで20分ほど余裕があるので、市場の方まで戻って凉皮を一碗。これが陝西方面の名物料理だとは知らなかった。冷たいが、香辛料がきいて、手軽に食べられていい。无座で買ったのに、車内はガラガラ、一両に2,3人くらいで、堂々とワンボックス占有して足を伸ばした。Lとしては需要の読みを誤ったね。最後まで席埋まらなかったし、ホント无座ってどういうことよ?*7。列車は定刻着で、切符は獲得。蔡家坡からって日本人としてはレアよ。

回民街で泡馍

一日の勢いにのせて、回民街で泡馍を食べる。北院门街西側の店。谭君とはじめて来た店と同様、表で注文しておくシステム。テーブルに座っても、品を持ってくる以外何もしてくれないので座っていても埒が明かない。仕方がないので混んでいるカウンターに行って注文する。席でもやっと待った。食は根性と粘りである。苦労するからまた美味いのであって、今日は一日が比較的好調であったから更に助長された。二回目は味わう余裕があっていいね。
その勢いで钟楼の屋台で昨日と同じ蜜汁を買ったら、これは火傷しそうに熱くて、でも3元を投げ捨てるわけにもいかなくてヤられた。見本のカップが2つあって、「触ってみ」と肌で確認するよう言われたが、さっさと買いたくて疎かにしたのが過ち。何しろ沸騰しそうなのを、全然断熱効果のない使い捨てプラスチックコップに注ぐんだもの。飲む以前に持っていられない。しばらくベンチの上などでお手玉し、ティッシュで断熱してようやく手にした。飲めれば美味いんだけどね。

明日の話

さて、24時間滞在できる日はあと1日になってしまった夜、西安在住の友人(実名を出さないでXさんとしておこう)からメールがあった。ちょうど家の事情で随分忙しいようだけれども、せっかく来たんだし1つぐらいガイドでもあるかなと期待していた。が、風邪も引いてしまったらしい(お互い様)。それでも約束だから、というので明日の午後に時間をとることになった。一応この日のために碑林などを取っておいたのだが、まぁ無理はさせないで独りで午前中に観光しておくことにした。7日間もありながらスポット配分に苦労する。
つづく

*1:咸阳と杨陵镇に次いで、と考えた。

*2:ネットの情報(某人のブログ)では、汽车站は駅の西方向となっていたから新築かもしれない。

*3:地元の話で恐縮だが天神橋くらい。

*4:ここも自信ないが何か示すものがあった。

*5:地球の歩き方-西安敦煌ウルムチ-』

*6:吉備路の旅参照。

*7:途中駅には指定席の割り当てが少ないため、たとえ始発駅で席が余っていようとも、割り当て数から溢れた分は全て無座に処理されるようだ。