南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

汝州温泉編2:温泉镇、汝州(Ruzhou)市区(中大街・钟楼・法行寺塔・煤山公园)

温泉町散策

3時間睡眠で寮を出たし、リンゴ一個のカロリーで往路をたどってきたので、やっぱり疲れがどっとこの一晩にあふれ出た。夜だけでは済まなくて、9時半まで寝ている。昨日の不安定な天候から一転して、充分陽が高く昇ったころ、漸く動き出してとりあえず外に出てみる。朝飯を食えるような時間ではない。鎮にそれほどの広さはないはずだから、1時間ほども回って早めに汝州へ出て“あひるごはん”とする。
療養所からの出方は昨晩の餃子屋往復で分かっている。その先は勘だ。別にそんな難しくはない。2回も曲がればメインストリートである。出口のところに市がたっている。そして元宵節の催しが賑やかだ。車たちは、そのごった返した水はけの悪い道をやっと縫うように走っている。昨日私が降りるべきだった「中心」はちょうどその辺りにあって、両脇にミニバスが停留している。飲食店、電器店、雑貨店といった生活商店が並び、旅館街はもう少し北に溜まっている。一見五平餅だが、実はトンカツにラージャオをぶっ掛けたような揚げ物を売っている露店が目に付く。商店街と旅館街を分ける位置に、少し名のある温泉宾馆がある。この温泉地、外地人にすらそんなに知れているわけでもなさそうだが、沿道至るところに英語の指示板が立てられている。それともかつて外宾がよく訪れていたことの名残なのだろうか。今、外国人がここへ来るなら、「迷い込む」という表現がふさわしいだろう。
昨日下車した三叉路を西に折れると、即行家屋がまばらになって町外れ。ロータリーに武則天の白い像が建てられている。当時そんなに豊満だったのかと疑問に思うほど、豊かな胸をしている。さらに西方には小高い丘が一つ二つ。この方面には貯水池があるのじゃなかったっけ。これでこの町がストリートを軸に細長く連なっているだけらしい(東側には少し膨らみがある)ことが分かったので、通りに戻って北へ北へ散策を続ける。だんだん新しい商店が北へ延びていくだけで、特に面白いものは無し。高速道路に行き当たったので折り返し。

汝州再訪

起きて時間も経てくると、空腹が深刻だ。中心地で汝州行きのバスに乗りこむ。ここではたしかに4元。东车房までどれくらいの距離があるか分からないが、ほとんどの車は空っぽで温泉に停まっているから、ほとんどが終点まで行かないでここで折り返しているのではなかろうか。顔かたちのとっても可愛い娘が真っ赤に脹れた手をしていると、田舎の可憐さが染みる。
今日はちゃんとターミナルに入場して下車。昨日西方に曲がった角の屋台街(数店舗)で、馄饨を一杯。昨夜の早めの夕飯と今日の朝食抜きで食べる昼飯にしては、量的に少なすぎるかも。つれづれに補えばよい。

中大街

今回の旅で温泉の次、いや温泉以上に印象深かったのがここ。市南部に位置する汝州の旧市街で、東西に伸びる一本の旧街道から成り立っている。古い街道らしいことはネット情報で分かっていたが、実際に目にして感動した。その車がすれ違えるかどうかほどの道の両脇に、雑貨店やら玩具店やらがずわーっと建ち並び、まずは盛況なこと。そして、店々の古風な造り。まるで江戸の宿場町か。まるで、どころではない。時代錯誤するかと思った。日本の時代劇なんぞ、映画村とかでやってないでここへ撮りに来たらいい。あの赤を中心とした原色でコテコテ塗りたくったような、「中華」の建造物群ではない。ほとんどが平屋の、茅葺かなんかの、人々が常に鼻つき合わす場。しかもそれが2kmくらいずっと続く。日本で、鉄道を途中下車してこういうのを探し歩くのが好きな私には、たまらないスポットである。中国ではなかなか見つからない代物であるが。
日本だったら、間違いなくハイキングコースとかに整備されて、町並み保存の対象になっているはずである。しかし、ここは中国、東に抜けると、やはり徐々に取り壊されている模様だ。道一本南北に造るだけで、ある箇所が寸断される。と、そこに目をつけて新しい家など建ててしまうと景観が削がれ、さらに侵食が進む。真新しく敷かれる道のために広げられた土地の向こうは、完全に2階建ての家々が連なっていた。ただ、旧道そのものは道筋として残る。これだけがせめてもの救いだ。开封なんて古都のはずなのに、都に集まるはずの街道の名残がちっとも無いもの。
もし何年後かに汝州に戻ってきて、既にこの町並みが須らく撤去されていたら、間違いなく中国を嫌いになると思う。わし的にはもう世界遺産候補である。

钟楼

これは中大街の中ほど、やや東よりにある。見学順序的にはも少し後だけれど、街道の付属なのでここで紹介してしまう。これも私にとっては目から鱗、口から涎の国宝級だと思う。市の中心部にズガーンとそびえ、ゆるぎない観光名所となった西安の钟楼とは比べ物にならない規模ではある。しかし、街道の他の屋根屋根に溶け込み、それでいて楼として目立つため、二階ほどの高さをもつ。庇の下に右から「楼鐘」と繁体字で書かれた文字はまた、何百年もの風雨に晒されてきた重みを感じさせ、目に焼きついて離れない。木造の楼全体が今にも崩れ落ちそうなほどで、あらゆる素材を用いてなんとか支えられている感じがした。
楼の裏手は市場になっている。今は春節、人影など一切ないが、普段は野菜市場などに使われているのだろう。共産主義時代の公営市場の色合いが非常に濃い。开封にも似た構造のが城壁内にある。市場の敷地内にも鐘楼を模したような、少し怪しげな建造物が二つほどある。崩れかかった主の代替だろうか。役割こそ交代すれど、存在感だけは消えないで欲しい。

法行寺塔

私の持っている地図ではもっと郊外、南東のおよそ行けそうにない集落にある。ところがネットで検索すると、案外市区の外れぐらいにあるという情報が大筋である。それで中大街を東に向かったのである。が、ある程度町外れまで来ても、塔らしいものはなかった。昨日Zさんらから、私の脆弱な聴解能力で拾った情報によると、それは市内にあるようだ。大街に一旦別れを告げて北へ進むと、片側2,3車線の大通りにでる。先ほど中大街の絶滅を危惧したが、この丹阳路と中大街で棲み分けをさせることで、意外といい線いっていると思う。つまり中大街に車を通さないために、現代的な大通り丹阳路を建設したというわけだ。おかげで旧市街と新市街がはっきり分けられ、町は北へ拡大することができたようだ。この二つの道の対照的な様もなかなか面白いものである。
この丹阳路から中大街へ伸びる路地、张公巷を探して暫く東西したが、残念ながら見つからなかった。もっと丹念に地図を見てくるべきだった。その過程で入った裏道が塔寺街という一本とクロスした。「塔?」と惹かれて角を曲がり、塔なら頭ぐらい見えてもいいもんだがとキョロキョロ進めば、突如そいつは現れた。四方ぐるりと囲んでいるのかレンガ塀から半分だけ塔らしきものが見えている。真ん中に穴のように開けられた入口の上には、ペラペラの張り紙が「法行寺」と。呆気ない、素っ気ない。寺がないじゃないか、寺が。穴から真正面に塔の礎が見える。高さは尉氏の古塔と同じくらいで、たぶん登れない。老人が集まって仏事を催しているようなので、敢えて進入しない。それなりの高さなんだから、表通りからも見えるはずだと思い、ぐるりと一周してみたが、どうも南に面する塔寺からしか姿は見えない。不思議な塔である。それにしても、この辺は見事な胡同を形成している。やっぱりユネスコ行きにすべきだ。

煤山公园

この町(市内)でもっとも有名なスポットは汝瓷博物馆だそうである。が、これがちっとも見つからない。中大街に入る手前で「博物館」を発見したが、汝瓷博物馆ではなさそうだ。瓷に関しては禹州で失敗しているのであんまり拘らない。昨日の話でも、なんか公開日に制約があるようだから期待できない。
お腹が空いてきた。焼き芋か焼きもろこしが適当だ。そんなところへ何やら賑やかな公園が出現した。煤山公园である。鉱産資源が豊富な平顶山らしいネーミングである。かつて濮阳で見たような春節祭りで、人にぶつかり揉まれながらしか進めない。公園としては入場無料だし、开封の禹王台公园(桜祭りのときみたいだ)か汴京公园のようで、まぁきれいな感じだ。多少遊具もある。それにしても混雑が激しいので、人ごみを避けるのが大変。北口から入って、西口から早々に出た。そして焼き芋を買って火车站で食う。

汝州火车站と帰宿

明日2月10日は旧暦で1月13日だが、この日は全国で長距離バスが運休するという驚愕の事態を耳にした。いわゆる交通機関の正月休みだけども、私の帰宅日を直撃せんでもいいではないか。その情報を聞いてから、かなり焦っていろいろ手段を考えた。日程上もう一泊することは避けたかった。確認したところ、実際に運休はしないということだったが、今日この駅で時刻表を見て臨時列車の停車が多いことを知り、万一真実だったらこの駅へ来ればいいと思った。温泉鎮から汝州までのタクシー代なら、まだ許せる。17時近くまで駅前でボウっと休んで、帰途に着く。
今夜のバスは温泉鎮止まり、一部の东车房客が不平。温泉街で何食おうか迷ったが、選ぶほど店が開いてない。簡易食堂で米线一碗。またまた量としては不够。湯上りに食べるビスケット(明日の朝食も兼ねて)と冰红茶を買って、療養所に戻る。50元の偽札を掴まされていたことに気づき、処分方法に悩む。

温泉放題二日目

今夜は水を少なめに張り、温泉水をダクダク注ぎ込む。温泉はやっぱり熱めでなくっちゃ。「湯船に感動」の昨夜よりレベルアップして、「温泉」なるものに挑む。湯が熱いと身体が温まるだけでなく、浴室内も暖気が溜まって快適に温泉を愉しむことが出来る。肩までドブンと浸かり、耐えられなくなったら縁に上がって一休み。あぁこれぞ日本と同じ入浴の姿じゃ。至福のとき。さらにランクアップして、壁に富士山とか、お盆に酒とかあるといいんだけど、これでも十分贅沢の極み。さすがに温度が上がると長湯は出来ないが、そこは個人湯、いつ入ってもいい。今日はよく歩いたし、暖房が効いてないのでよくよく温まって疲れをほぐしておく。しかし、どこへ行っても温泉っていいもんだね。
朝風呂も堪能したいので、今夜は湯を半分だけ抜いておく。目覚めたら、一晩で冷めた水に湯を加えればよい。
つづく

(map:平顶山汝州(中大街))