南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

开封博物馆

はじめに、今回は時期的な関係で、とくに一階の展示において建国60年の装いが強く、通常とは異なっているかもしれないことをお断りしておく。
さて、开封博物馆は、レプリカだらけで見る価値がないと言われたり、开封の伝統民芸である年画の企画展をやっていたりして興味深いと言われたり、人によって評価が大きく分かれる。私は、そのアンバランスを持て余し、今日まで見学を躊躇ってきたのであった。評判を気にしないのであれば、入館は無料だし、年中無休だし、全く気軽に見学できる。まぁ年中見学者の出入が少ないのが、ちょっと壁かな。
この日は天候が今ひとつ優れず、午前中は公交で時間をつぶし、午後はいつ雨が降り出しても気にせず楽しめる博物館にしようと。

アクセスと入館

場所は包公湖南岸、迎宾路に面している。客运西站から徒歩圏内、北へ5分程度だ。开封最大の玄関口である火车站(および汽车中心站)からは、1路か9路に乗り、博物館停で下車*1。博物館では乗降が少なくスルーも有り得るので、慣れない方は1つ手前の客运西站停で降りるのも手。
f:id:Nanjai:20190814110626j:plain
無料といったけれども、ゲート前の元切符売り場で整理券をもらわなければならない。これが午前の部と午後の部に分かれていて、およそ12時から2時ごろまで収受できない(即ち入場できない)ので注意*2。整理券は非常に簡素な付箋みたいな紙片で、券売所脇の車止めゲートを通るとき、守衛に回収されてしまう。世界一短命な入場券かもしれない。なんか名鉄大江駅築港線改札みたいだと思った。

1階(建国企画的な近現代史

天候のせいだけではない、何となく薄暗いエントランス。左手には記念品売り場もある。ではコンテンツについて。
1階と2階それぞれ左右に展示室がある。1階の左手は、开封市(主に市区)の1949年建国以来(改革開放後が比重やや高し)の発展について、産業や教育、交通など分野ごとに、写真・グラフを用いて報告している。説明書きなどは読解できない部分も多いので、古い写真を見るほうが興味深い。今ですら田舎臭さのとれないこの町が、一昔前はもっと凄かったのだということが一目で分かる。グラフなんか数字弄ってるかもしれないからね。留学期間中も図書館へ赴いて古い資料を繰ることなんてなかったから、ここへ来ると随分と勉強や研究になるし、ビジュアルに市史を掴める。とくに交通面と産業面を注視。そして何より、まったく興味なしで飽ききった顔の学生や、説明文を河南弁で熱心に読む年配の方など、見学する人民を観察するのが最も楽しい。
エントランスを挟んだ対面は、开封地级市内5县(开封,尉氏,通许,杞县,兰考)をブースに分けて、こちらは現況や特産などを紹介した展示室となっている。通许以外の4県は訪問済みだが、各地に博物館や資料館がないため、やはりこういう場所が必要だ。市区は観光で稼げても、一歩郊外へ出れば河南の中でも貧しいほうに属する農村地帯だ。農業や軽工業で成果を上げようと、必死に努力している姿がうかがえる。この部屋になると皆さん更に興味を示さなくて、始終一人っきりで観ていた。もっと郷土を知るべきですよ。
この1階の展示場は、60周年事業で整備されたような、かなり綺麗で新しい様相であった。けれど、これは本来から設けられているべきで、とくに市を代表するような博物館は古代史のみに特化してはいけない。この展示空間を、今後も是非とも大切にしてもらいたい。

2階(常設展らしい古代史と宋代クローズアップ)

建物の中央奥に階段があり、踊り場で左右に分かれる。ちなみにエレべートルは恐らくない。部屋の照明を調節して、展示品をより効果的に見せる博物館は多いが、展示室外が室内より暗い博物館はあんまり見たことがない(笑。今日はまだ人出があるが、一人になったら少し不気味な空間である。元来私は博物館で一人っきりになると腹痛を催す体質なので、この環境設定はちょっと頂けない。迎宾路(角度によっては包公湖や开封府も望める)側へ開けたガラス窓も霞んでしまったのか、外が実際よりも曇って見える。
階段を登った左手(さっきとは向きが違うよ)が开封の古代史、右手が宋都开封をちょっと掘り下げた展示になっている。いわゆるレプリカ天国とはこの2室のことを言うのだ。市内で博物館と名のる施設はここだけだが、この2階と同じような展示を行っている景点がもう一つある。山陕甘会馆だ。こちらは主に市区部分の歴史と史跡を、歴史資料館風に紹介している。それに対して、今回の博物館では开封地级市に視界を広げ、郷土の歴史人物を取り上げたりしながら开封への見識と理解を深めることが出来る。「市区博物館」と「市博物館」では歴史の舞台の大きさが違うよということだ。また、広げた世界から外部との関わりを見ることも大事だ。河南省博物院を見ると、さらにその歴史上における开封とは何なのかを考えることができる。単に展示が重なっているから、と片付けず、その博物館の位置づけと役割を念頭に置いて見学すると意義あるものになる。複製である陳列品にケチをつけるよりも、展示全体から歴史を感じとろうとする意欲が大切だ。まぁ、若い人民のように、片っ端からケータイカメラで撮影するのもどうかと思うが。
ガラスケースの向こうに出土品などが並び、説明パネルで物語る格式ばった展示は古代史側だけで、宋代展示室はもっとラフな造りをしている。10mほどに延べられた清明上河図や、手にとることのできる貨幣、上河図に描かれたような茶館・酒屋などの再現*3等々、多少なりとも工夫が凝らされている。政治色の濃い1階に対する態度とは打って変わって、シャッター音を頻繁に鳴らしたり、ガラスに顔を押し付けるようにして展示品に熱い視線を送る若者達が印象的。惜しむらくは、开封汴绣や朱仙年画など、地元の民芸の紹介が特に見られなかったこと。企画に回さず、普段から取り上げるようにしたい。
以上のように、これといって必見のものもない代わり、見る価値もないほどつまらない所でもない。1,2階の少し対照的なテーマ設定とオーソドックスな陳列構成で、それなりに存分人民を惹きつけているようだから、私たちもそこに溶け込めれば良いと思う。資料で开封市を伝える、という役目は大方果たしているように見える。

(map:开封博物馆)

追記:新市街地の郑开大道沿いに新館が建てられたことに伴い、当館は2019年04月30日をもって閉館しました。

f:id:Nanjai:20190814110658j:plainf:id:Nanjai:20190814110820j:plain
(画像はいずれも2019年撮影)

*1:迎宾路の横断には細心の注意を。

*2:これも今まで見学を妨げてきた要因の一つ。

*3:進入および記念撮影禁止。手足をかけると監視員が制止に来る。