南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

家族旅行 下呂温泉 1:小川屋

父の定年退職を機に企画したのに、予約直後に父が行かないと言い出して代わりに祖母を誘った。昔は休暇ともなれば下呂や高山など飛騨地方への家族旅行はよく行ったもんだが、その反動からというよりは家族各々の旅行に対する趣向の歴然たる差異から、外出を共にすることは激減した。だからこそ偶の機会にも協調してくれない父には些か残念ではあった。祖母とは普段不定期な休日で会う暇もなく正月の挨拶にも行ってなかったので、一緒に過ごせる貴重な機会だと思った。自身にとって、家族旅行および日本国内の宿泊を伴う旅行のいずれも、渋温泉以来7年ぶり。
目的はごく単純に、温泉入ってビール飲んでご馳走食べてまた温泉に浸かって寝て、翌日も朝食を挟んで温泉を満喫するという贅沢をしたいだけである。普段から日帰り温泉やスパを楽しんでいるけれども、一泊し落ち着いて飲食を挟みながらの温泉放題はこの上ない休息だ。個人的には先日鑑賞した「SMAP 5人旅」有馬温泉行への羨望的影響もあるかな。母によると、祖母は久しぶりに気兼ねなく飲めると喜んだらしい。

往路ワイドビューひだ

午後3時前のワイドビューひだ号で下呂へ。待ち合わせの名古屋駅で私一人だけJRの中央改札口を出てしまうハプニングがあった。合流場所の名鉄近鉄につながる南口へ急いだ私と若干の人的行き違いが生じた。改札内にできたてのスタバで飲み物を買う。発車と同時に懐かしきワイドビュー車内チャイムが流れる。
折角の「ワイドビュー」なのに4人席の確保の仕方が不適切だと不満が発生。すなわちワイドなウインドウとウインドウをまたぐように2席ずつ取られており、座席を向かい合わせにすると視界のど真ん中に柱が来てしまう。問題はビューだけではない。ウインドウ下には小物を置けるフラットなスペースがあるが、ウインドウの中央ほど広く端ほど狭く作られている。つまり、この席の取り方だと狭い部分しか使えない。結局シートのボックス式利用は諦め、進行方向に合わせて2席ずつで乗車することに。
各務原市那加近くの新境川では、川沿いの桜並木が咲き誇っていた。
木曽川は前夜の大雨で川幅いっぱいに増水し濁流となっていた。それでも山側の指定席を離れ、アナウンスを聞きながら飛水峡の甌穴群や中山千里などの車窓を楽しむ。特急の乗車時間約1時間半がこんなに適量だと思ったのは初めてかもしれない。下呂駅で1番ホームに入線するための行き違いで数分遅れた。下呂駅では旅行客に跨線橋を渡らせないため、特急は改札口正面の1番ホームに停車する。そのため駅の場外で特急列車を交換させる。そんな道理も初めて知った。

湯宿小川屋

旅館小川屋へは送迎バスで向かう。川原の露天温泉は完全に濁流に呑まれていた。下呂のメインストリートから少し上ったところにある下呂温泉 和みの畳物語の宿 小川屋。表の「どんびき」は見逃したが、フロントのカウンターに白く平たいカエルの置物が伏して来客を迎えているのが印象的。

エントランスのカエルたち(六カエル→迎える)

小川屋は建て増しを繰り返したせいか構造が複雑で、部屋と宴会場や湯処との移動でEVの乗り継ぎも多く、方向感覚の良い私も初めは迷っていた。部屋はゆったり広く、Wi-Fi使い放題。山側への眺めも良かったが、夜になっても明かりの灯らない旅館も多く、日本有数の温泉地で春休みの最中といえど厳しい経営状況がうかがえる。

さて、さっそく温泉満喫開幕だ。浴衣をまとい湯殿への回廊を歩くだけで、懐かしいところへ帰ってきたような落ち着きと解放感を覚える。
宿の名の通り、湯船の周りも含めて一面畳敷の浴場には驚かされた。溢れた湯が直ちに畳に染み込んでゆくのも風情あるし、滑って転倒してもケガしない。日帰り湯でも銭湯でも同じだが、まず軽くかけ湯して熱い湯に身体を沈めたときの肌がジワーッと痺れるような感覚が一番好きだ。身体を洗ったあとよりも、このひとときの方が長く心地よく湯に浸かれる。木曽川河岸に面した露天風呂は濁流が足元に迫る生憎の光景。温度も露天としてはやや熱めで、この晩は今一つ寛げなかった。
脱衣室は木を基調として明るい。下駄箱は青白い光を放つ殺菌消毒装置がある。でも私は土間に脱ぎっぱなしw 湯上がりには爽健美茶に似た味の百草水がおいしい。

生ビール一杯と妹の飲み残した瓶ビールによって最高のほろ酔い加減で戴く夕食は、筆舌に尽くしがたいほど素晴らしかった。料理を常に温かいタイミングで食べられるよう工夫されている。デザートもただのカットフルーツではなく、無花果を調理したこだわりの品だ。祖母も気分よく酔って今度は得意のカラオケしたそうだった。私もノりそうになったが温泉を優先した。

二度目の湯あみでは湯船の浅く造られたところで寝ころび湯を楽しんだりして、ほぼ人気のない浴場を自由気ままに過ごした。露天風呂では突如乗り込んできた若者四人組が入るなり「絶景だ!」と叫んだので、わずかな町明かりと濁流しか見えない真っ暗じゃんか、と思わずツッコミそうになった。彼ら曰く下呂温泉でも一二を争う絶景だそうである。

1階浴場とEVとの間には小川屋の懐古写真や所蔵品を展示。客室の並ぶ廊下や通路にも趣向が凝らされ、扉の外に格子戸のついた部屋や、生け花・水琴窟・人形・版画などが随所に設えてある。

休憩コーナーの中庭越しには、開業当時の宿泊棟らしき建物が垣間見える

湯上りに静かなロビーや売店を覗いていこうと思ったら、既に終業していた。

つづく