南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

河南の農民工事情

母から「鄭州が出てくるよ」と見せられたとある番組で、久しぶりに庶民の河南弁をたっぷり聴けた。郑州市の都市開発に伴う農民工居住区強制撤去と翻弄される農民たちをめぐるドキュメンタリーで、言葉だけでなく街並みや故郷の農村風景全てが間近に接してきたもので懐かしい。農村生計の厳しさや出稼ぎ事情は知人から見聞きしていたけど、俺の留学生活や再訪旅に欠かせない安食堂や屋台の店主たちが都会の住処を追われていくのは心が痛む。実際に许昌地方の農家に泊めてもらったことあるが、少し交通量のある国道などを離れてしまえば長閑なトウモロコシ畑が延々と広がっている。収穫したトウモロコシを家の屋上やアスファルトに広げて乾燥させている。ここには農業しかやることがない。田畑の売地(使用権売買)で融資を受けられる制度ができた。都市で家を確保し戸籍を得るために、先祖代々継がれてきた農地を抵当に入れる。子孫に高い教育を受けさせるために、都市民になる道を模索する。
計画的で徹底管理された都市が、果たして人民の息吹を感じさせるだろうか、魅力ある生活環境をつくれるだろうか、そこに新たな都市民を誘導できるだろうか。街を潰したところに街はすぐには息づかない。都市部近郊の開発区にはまだ全然活気がない。飲食店どころかコンビニすらやっていけない。居住区を追われた農民工たちはそういうところに店を構えようと試みる。彼らは活気ある街をつくるプロフェッショナルだ。彼らを正しい地域に移動させるのは確かに適切な政策といっていい。しかし、彼らにも生き方を選択する権利があるし、好きで農民工をしている訳ではないだろう。ある程度都市に依存している以上、都市民と同水準の教育や医療を受けたいだろうし、一定の生活向上もしたいはずだ。その辺を補助してプロフェッショナルたちに近郊で活躍してもらえたら、案外円満に進むんじゃないかな。高層住宅の林立する無味乾燥な街で、ホームレス化した農民工と行き合うのだけは勘弁してほしい。
ともかく、不屈で前向きで底抜けに明るい河南人民のことだから、どんな境遇にも活路を見出だしてくれると信じている。次回またどこかの町で美味いもの食べさせてくれる人民の、見えない生活事情にそっと想いをはせることだろう。来年こそは絶対帰るぞ、待ってろよ、トウモロコシ畑!

番組に出てきた農民工居住区陈砦村は、郑州市内北部にあり、馴染みのスポットとしては北站や河南省博物院に程近い。Googleマップで見るとホテルが集中しており、決して交通の要所でもないのに出稼ぎの街が発達した訳がわかる。