南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

初回道(はっかいどう)の旅 10:白老

曇(苫小牧・白老)
少し寝坊した。食堂で「今日はちょっと遅かったね」と小母さんに言われてしまった。

YHは愛知人だらけ。17日のフェリーで到着し、これから旅を始める者。少しうらやむ。

昨夜は寂しくパタリと寝てしまったけども、結構多くの人が泊まっていた。奇数の日は苫小牧に太平洋フェリーが発着するので、東海地区の宿泊者が多かった。グループだと思った学生は実はバラバラで、一人は名古屋の人だったので地元話に沸いてしまった。女子大生だけども、これから気ままに北海道を廻って東北も伝って帰るのだそうだ。うらやましい。私はもう明日、この地を去るというのに、彼女はこれからなのだ。一昨日の私のように、バス停へ歩く姿を自転車で追い越しざまに、「気をつけてよい旅を」と声をかけた。私も残りの滞在を愉しみに、西へ向かって出発。

国道36号沿いに走行。曇で樽前を望めず、明日が頼り。

連泊なので軽装のサイクリング。14日に走って気づいたように、36号は段差が激しいのだけど、市街に入るまでは仕方がない。
さて、今日目指すのは、白老ポロトコタンというアイヌ民族の博物館だ。苫小牧市の西隣、白老町にある。片道およそ30kmで、一日の走行距離としてはもっとも長いほうだろう。まっすぐで、さほど起伏はないはずだから、距離だけが問題だと思うよ。アイヌの観光地といえば、旭川の近くにある神居古譚が知られているが、交通の便がよくなかった。白老もJR線からは若干離れているのだけど、苫小牧周辺ならば自転車で行ける。支笏湖以外で、ちょうど良いサイクリングコースだと思った。
苫小牧市街を抜けると、山地沿いに国道と平行した走りやすい道がある。持っている地図が正しければ、その道は白老との中間ほどで国道に合流することになっているが、少しでも喧騒から離れていたい。
右手を仰いで見ても、樽前山は望めない。どうも苫小牧と千歳にいるときは、上陸初日を除いてカラッと晴れない。(昨夕、苫小牧駅に着いたときは多少晴れていたかな?)そのせいか、結局樽前山の噴火口を望めたのは、初日の一回だけだ。写真に撮りたいので、なんとか明日には晴れて欲しい。
《道の某所に、「樽前爆走族」とでかでかと書かれた乗用車を見つけた。樽前は地元の人にとても愛されて?いるらしい》

白老ファームの競馬馬。白老たまごの里。

国道に出ると、歩道整備もままならないひどい道。その途中で多少面白かったのが、ファームで競走馬が飼育されているのに出会ったのと、たまごの販売コーナーが設けられていて地元の人が大量にたまごを買っていく姿が見られたことだ。たまごの自販コーナーというのははじめて見た。普通の鶏卵だけじゃなくて、うずらとか何種類かの鳥の卵が売られている。「白老たまご」というのは有名なのだろうか?

テーマパーク到着。コタンラーメンでホタテを食。

入り口には、食堂と細かな飲食店がお祭りのようにひしめいている。ちょうど昼時だったので、食堂に入り、コタンラーメン(海鮮・塩)を頼む。海鮮とは名のとおり、エビ貝など海の幸が10種近く乗った、塩スープのラーメンだ。ここで初めて北海道に来てホタテを味わった。支笏湖の夕飯でも出た気がするんだが。ラーメンはともかく、アイヌの人々は嘗て、こういう豊富な海のものを食していたんだろうか? YHに帰れば又ジンギスカンであるから、魚介類を外で戴いておく。

押し売り気味な民芸会館

さて、入場。と行きたいところだが、このテーマパーク、というかどこでもそうだろうけど、ゲートの前に大きな民芸品ショップ(みやげ物店)がある。それはいいのだけど、この民芸会館、売り方がひどく押しが強いのだ。まずは入園しよう、と思っているこちらに、積極的というよりは強制的が濃厚な売り方をしてくる。正直怖かった。それでも客っぽく覗いたりしながら、土産の目星をつけておく。
で、入場がこれまた750円と高いのだ。中に博物館は含むけれど、規模はそんなに大きくない。せめて500円にしてほしいよ。

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白老ポロトコタン
ゲートをくぐると、大きなコタンコロクルという像が迎えてくれる。これには後で賽銭を入れて拝む。まず民族博物館に入館。アイヌ民族のかつての暮らしを偲ばせる民具や自然との深いかかわり、そして近代以降置かれてきた少数民族としての立場、アイデンティティ、誇りをかけた闘い、といったように綴られている。終わりに、参考資料コーナーと民族楽器で遊ぶコーナーがある。アイヌ語地名と現地名対照表をめくってみた。ローカルなものは除いて、メジャーな地名だけみても面白い。そのときふと思ったのだが、アイヌ語の人名の名残はどこへいったのだろうか?今北海道にお住まいのかたがたは、たぶん和人と同じような太郎さんとか名をつけているだろうが、沖縄で具志堅さんなどというとすぐ分かるような名残は無いんだろうか。こういう文献が無いかと、しばらく館内の書店や図書室を覗いてみる。学芸員の方が不在なので質問できなかった。
民族楽器のムックリは、ペンほどの大きさで、竹についた糸の張りでビヨーンビヨーンという音を出す。子供に混じってひとつ手にとって練習してみたが、未だマスターできてない。

アイヌの民族舞踊

このムックリをバックに、伝統家屋の中で踊る。踊っているのは、自分と同年代くらいの、おそらくアイヌの誇りを受け継ごうとする若者たちであった。不思議な香の漂う、薄暗がりな家屋の中で、神秘的なムックリの音が響き渡った。暗すぎて、フラッシュもあまり効果なく写真はつぶれてしまったが、雰囲気が分かればよい。
舞踊を催す大きな家のほかは、伝統工芸を披露する2,3軒の家屋がある。造りなんかは一見日本の旧家と変わらないが、各所に伝統文様の彫られた柱や壁があり、差を感じる。
ポロト湖に面した休憩所で、アイヌの伝統的料理であるシト(団子)を食べる。イナ、キビ、アワの三色でとても素朴な味。お土産にしたかったが見つからず。

味すら謎の熊笹

またまた例の土産コーナーを通る。今度は何か買わないといけない。むしろ買いたいのか。できれば博物館内で印象的だったものを選びたいのだが、そういうので手ごろなのが無い。ムックリがもっとも前面に出ているので、これを自分用と大学の友人用に計3個買う。あと何にしよう、と迷っているとこれまた怪しそうなおばさんが熊笹茶を売ってきた。やめときゃいいようなものだが、突飛なものがひとつほしいと思ったのと、軽いパックなので嵩張らないで済むと思ったのと、健康に関する効用が書いてるので悪くなさそうだと思ったのと、最後の押しはやはり売込みが強かったので、ついつい買ってしまう。弱いなぁ。試飲すらしてないから、味も見当がつかない。
入口前に並ぶ数件の露店で一杯の牛乳を買い、嘗て道内で活躍していたらしいSLを眺めつつ飲む。このSLの説明書きの中に、万字線という路線があって、ちと謎だった。

晴れないので海岸線を撮るのもやめ。白老に長居しすぎてYH着が遅れる。3度目のジンギスカン

結局日中どんよりと曇り、雨こそ降らねどもいまいち晴れなかった。せっかく海岸道路を走るのだから、一つ切り取っておきたかったが諦める。当然、樽前も不可。さすが全国2番目に交通事故死が多い北海道だけあって、マナーの悪い車、恐ろしい車に結構出くわした。一度体当たりを試みたが、死ぬところだった。いつもの調子ではいかんな。でも一位の愛知だぜ、負けるものか(何。
今旅のサイクリングで一日走行距離が最長なだけに疲れがあったらしい。空腹も相まって、帰りが少し遅くなった。けれど、疲れがあるということはご飯がおいしい。メニューは変わらないが、今後ジンギスカンを食す機会はそうそう無いと思われるので、味わった(たぶん)。
つづく