昼までは宜蘭で過ごすつもりなので、荷物を置いてゆっくり朝食を探そうと思ったが、戻るのが面倒になってチェックアウトした。そうそうこの宿は華賓旅社というのです。一夜の宿を有難う。写真一枚撮っておく。
曇天の宜蘭。台湾に来てまだ青空を見ていない。
度胸のない空腹
さて、この10日間の旅で最も苦しんだのが、食。といっても、食べるものが口に合わないんではない。多少油濃いことがあるが、食材は比較的日本の物に近いし、味付けも全く支障がない。では何が問題かというと、店に入る勇気が出ないのだ。一般に日本では、店先にある品書きやサンプルを見て、それに惹かれて入る。そしてテーブルに着くと、お絞りとお茶が来て、メニューを見ながら或いは店頭にあったお薦めなんかを注文する。手元にメニューがあるからその文字列(或いは写真)を指しても注文できる点で、言葉が通じなくても怖くない。
ところが、台湾は違う。大抵店頭で調理しており、品書きは店頭に掲げてあるが、指差しでは通じない。「これ」ではなく、「あれ」とか「それ」の範囲だからだ。そして、発音できないものが多すぎる。庶民の食べ物だから安いのはいいが、ガイドブックに載ってないのだ。従って、カタカナ発音(即ち四声無視)もできない。勿論日本人慣れしてない店員は、自信のないカタカナ発音をあの喧しい街中の店頭で聞き取れるはずがなく、かといって黙って店内の席に着くわけにもいかない。だから、結果的に店頭を通ってみるのだが、手を出せないで彷徨うことが何度もあった。その為か、勇気を出して入った店の味は、強烈なほど印象に残っている。
さらに、台湾にはもっと重大な問題があった。この日は、チェックアウトの規定時間を聞いてなかったので、9時半から10時迄には出るようにしていた。ところが、台北でも宜蘭でもどこでもそうだが、台湾の食堂やファストフード店の多くが、11時からしか開店しない。一体台湾人はいつ、どんな朝飯を食うのだろう、と思わされるくらい、朝は店が開いてない。ミスドやマックまでが10時でも閉まっている。開いているのはコンビニくらいなものだ。後日、台北で友人に聞いたところ、「そんなでもないよ」と言われたが、それは朝市の食堂なのじゃないかと思う。10時は中間だから準備中でも仕方ないが、7時とか8時に朝飯を食べたい人はどうなのかと思った。9時には開店して欲しい。
ガイドブックにない町、宜蘭(Yilan)
花蓮から台北へ戻る中継点として、立ち寄ることになっていた宜蘭だが、ここは全島地図と鉄路時刻表でしか知らない町。ガイドブックには、一行も案内が書いてない。無論、市内地図もない。白状すると、宜蘭の市街地が駅に対して東西南北どの方向にあるのか、海側なのか山側なのか、それすら分かっていなかった。地図は自分で歩いて、自分の方向感覚で描くしかない。
ハングリー・ウォーキング
旅社を出て、駅とは反対方向に歩くと、まず市場がある。中高年主導だけど、結構活気があって、新鮮そうな野菜や揚げ物などを売っている。中には、「ヤキイモ」という札があって、日本人観光客が少ないと思われる(ガイドブックにない)町で、誰を狙っているんだか。痩せてはいたが、確かにサツマイモを焼いていた。後で喰おうと思ってその場を去ったが、1時間後には消滅していた。どこ行ったんだろう。他にも「恰日族」の日本ラーメンだとか、寿司屋もあった。全家便利商店でマントウを買って、お腹を宥めてまた歩く。
何だかこっちも書きにくいので、種明かししてしまうと、宜蘭の町は駅から北西方向に広がり、鉄路の山側に当たる。私の泊まっていた旅社は、駅から北西に延びるメインストリートの北側(鉄路に沿った大通りの1本裏道)にある。さっき歩いた市場も北の街区に当たる。
南には、もっと鼻付き合うほどの密集した市場があり、肉類や魚介類も混じった生々しさがある。即席の食堂露店もたち、賑わいはメインストリートよりも一枚上手。
メインストリートは4ブロックほどでT字に突き当たり、この左右に延びる道を右に行くと、多少近代を思わせる大きなショッピングセンターが見える。でも、宜蘭の町は概して平屋建築の町だ。四階程度でも結構高い部類じゃなかろうか。この通りは、市場のような庶民臭い賑わいではなく、清楚な市街地。ただ、一個だけ驚かされるのが、女性の下着を売る専門店の多いこと。日本ではこういう店は大抵SCに入っているので、アダルトショップに積極的に入らない限り、男性が目にすることは少ない。やっぱ恥らいを重んじる民族なのか、わしらって。
さらに駅から遠ざかってみる。もぅ一つ、宜蘭を歩いて気付くことは、住宅地や市街地の中に、突然煌びやか且つ神聖さを醸し出す寺院が納まっていることだ。目立つようで自然、それは日本のお寺や神社よりも不思議だ。春節の為か至る所で開かれた市を眺めながら歩くうち、川の堤防に出た。その川の向こうは突然田舎という雰囲気が漂う。大して観るものがなく、食べることも間々ならないもどかしさを感じながら、暫く佇んでいた。
宜蘭設治紀念館
気分換えに、今度は駅西地区の奥を探ってみる。と、何やら観光バスが数台停まった公園に出た。おっ、観光名所発掘か、と潜り込んでみると、日本家屋らしい建物が3軒並んでいる。表の説明書きによると、どうも日本統治時代のこの地域の農業と工業を司る機関が置かれていた建物らしい。一軒は概観見学、二軒目は宜蘭設治紀念館という、云わば歴史資料館になっている。12時から13時までは一時休館だった(こういうタイムシステムも公的で謎)ので、暫く待つことにした。そしてもう一軒なんだが、この前で佇んでいると、近所のオジサンらしい方が呟くように「お金を払ってご飯を食べるところ」みたいなことを話しているので、気になって注意深く聞いてみた。ジェスチャーも交えて呟いてくれるのだが、多少高価らしいことの他は、上記以上の情報を得られなかった。嘗ての名残らしいレンガ塀の陰に佇む彼は何となく奇妙だったが、逆に彼にとってみれば日本人観光客がフラリとその店に入っていこうとするのが奇妙に思えたのだろう。教えてくれて有難う。立ち去りかけても、彼はまだ暫く私を見ていた。気がかりだったんだろうか。(後で分かったが、この建物は宜蘭工藝坊というらしい)
市場でコロッケお焼きを頬張って、戻ってくると紀念館は開いていた。さすが日本建築、内部は畳敷きで廊下は板張り。スリッパが置いてあるので履き替えるはいいが、畳にスリッパは靴でなくても抵抗がある。ポルトガル人のやってきたフォルモサ時代から、宜蘭縣の設置と変遷までが展示されている。元玄関だった所では一旦コンクリートの地面まで降りなければならないほど、隅々まで展示物を並べる。かなり真新しい内装なので、近年整備された模様。因みに入館30元。
“台湾の下呂”礁渓(Jiaosi)へ
14時半、宜蘭駅から電車に乗る。遠足か校外学習か、20人余りの小学生らしき子供が車内で騒いでいる。言葉は違っても日本と同じ風景。たった2駅で礁渓駅に。こりゃ宜蘭からバスがあるわけだ。大変近い。駅前の小さなロータリーには足湯のできる温泉モニュメントがあり、憩いの場となっている。そして正面駅名の左脇には、見慣れた温泉マーク♨。駅を出て一つ目の通りは礁渓郷(市町村の町くらいに当たるんだろうか)の市街地。二つ目の通りには、温泉旅館と称する宿泊施設が立ち並ぶ。日本は近年、小泉内閣主導で観光促進事業「ビジットジャパン」が進められ、外国人観光客誘致に向けた観光スポットや宿泊施設の整備を奨励する動きがある。台湾でもそれに倣っているらしく、ここ2,3年ほどの間に整備されたような施設が数多く、一定基準を満たしたと思われるホテルやみやげ物店にはカラフルな認定マークが掲げられている。これは私たちにとっても、非常にありがたい。ホテルを選ぶ基準になるし、観光客に対する意識が強まっている証拠だからだ。礁渓の温泉街では、このマークが特に目に付いた。
二つ目の通り(中正路)から山側に向かって、温泉公園と言ってもいいような、温泉溝とその周りに休憩所などを整備した公園が長く続いている。ここからの眺めはまさに、“台湾の下呂”といった感じだ。温泉溝をはさんで両側に各レベルのホテルや旅館が立ち並び、嘘かホントか露天風呂まであるらしい。温泉公園は山側に向かって緩やかな上り坂になっており、その先には男性のみの公衆浴場と日帰り客用?の新設浴場がある。
宿探し
この新設浴場を後で利用することにして、まずは今夜の宿泊所を定めねば。昨夜のように8時まで宿無し猫になると拙いということで、早めに来たのだ。温泉溝で足湯休憩をしてから*1、温泉街へ戻った。一軒のホテルから男性が出てきて、私に台湾語で話しかけてくる。「日本人だ」というと、「観光か」と聞いてくるから、そうだと答える。でも、それ以上の内容が分からない。向こうも尋ねていることが伝わらないと分かり、諦めて旅館に戻っていったが、こっちとしては自ら入っていっても「幾ら?」とか尋ねたりするのが厄介なので、こうして誘導してくれるほうが有り難い。謝謝と礼を言いつつ、誘いに乗っておけば良かったと後悔する。今回の旅で泊まった宿は全て格安で千元を越えたことはないのだが、安くても2千元といわれていたので、ついつい易く誘われると硬くなってしまうものだ。
素通りを繰り返して700元〜800元の宿を数軒押さえてから、私は大変なことに気付いた。「泊まる」という単語を知らないのだ。致命的!! 入っていって何を言ったらいいか分からない。仕方ないので、表に書いてある「住宿」という言葉を使ってみることにした。年配の男性が2人寛いでいる一寸怪しげな旅館に入って、「我想一天住宿」と言ってみたが、やっぱり通じない。紙に書け、とフロントに連れていかれた。上記を紙に書くと、不審そうな顔をしながらもチェックインの手続きをしてくれた。尋ねるのが面倒だったのだろう、「パスポートを出せ」と日本語で言って、それを見ながら書類を片付けていった。800元支払って二階に案内され、管理人さんの奇妙な英語での室内説明を受けると、宿が決まった。言葉が通じない中で色々とお手数かけました、謝謝!! 華欣温泉旅館という名のこの宿は、認証マークもなく、あまり外国人慣れしていないようだ。私が泊まったことで、良い切欠になってくれるかな?
牛肉麺
礁渓駅から歩き始めて思ったのは、「牛肉麺・水餃」の看板が非常に目に付くこと。夕飯はこれにしようと思った。どっちも発音が分かるからだ。思えば、花蓮で金龍大旅社のおばさんに注文してもらった排骨麺や、扁食1品の店で支払いだけのワンタンは、何も言わずに食べられた。4日目にして初めて、コンビニに頼らず、自分でまともな食事をすることになるわけだ。
とはいっても、そう容易くいくものではない。何軒かの素通りを重ねて、旅行でいつもコンビニには頼れないというプライドがあったからこそ、なし得たものだ。面白いのは、一度素通りした処ほど入りにくいのである。宿でも食でも、「飛び込み」というのは初めて目に付いたところを選ぶほうが遣り易いと思った。
あの店は、華欣旅館のある中正路沿いの、温泉街からやや離れたところだったと思う。表で麺を茹でていたおじさんに、「牛肉麺(ニゥロゥミェン)」と言うと、「牛肉麺か」と確認するように言って分かってくれた。客が私一人だと寂しいもんだが、馴染みらしい男性がいた。奥では店の子らしい3人が、ドラえもんを観ていた。ほどなく、牛肉麺登場。先日の排骨麺と違って、麺は「きしめん」が近い。幅はきしめんほどじゃないが、あのやや平たい面体と白さ、そして弱冠のシコシコ感はうどんの類だ。そして、牛肉塊のでかい事。日本のラーメンにあるような、シナチクとかハムとかいった貧弱なものではない。大鍋でどっぷり煮込んだような牛肉がゴロゴロと5,6ばかり入っている。日本で、これだけの牛肉塊を食べたことがなかったので、魂消た。スープはそれほど油濃くはないが、それでもラーメンの汁が近い。そして、味がひどく濃くないのが幸い。
何より、昨日の夜から3食分碌な物を食べていなかったので、感動的な旨さだった。噛み応えのあるジューシーな牛肉と、癖のないスープ。これで80元じゃなかったかな。ご馳走様、謝謝!!
支払いを済ませて外へ出ると、町外れで大きな音とともに花火が上がっていた。
台湾の温泉
腹ごなしに歩いて、そのまま温泉へ。受付で、何を言ったらいいか分からないので、100元出したら20元とチケットが返ってきた。シェシェ。ロビー?をはさんで男女湯が真っ二つに分かれているので、片側からの覗きは不可能(受付は女湯入口に接続している)。暖簾をくぐると、モギリのおじさんが居る。チケットをビリビリ雑に破りながら、「服を脱いで入れ」みたいなことを教えてくれた。謝謝。
それでも分からないことがある。ガイドブック等で、「台湾の温泉は原則水着が必要」と認識し、水着も持参してきている。全裸でいいのだろうか。脱衣所と浴場には一枚の扉もなかったが、覗くは恐れ多い。それで、変態だけれど、後からやってきた同世代の若者4人がどうするか、ゆっくりと脱ぎながら観察していた。連中が全裸になったので、私も自信を持って脱ぐことができた(笑。
裸になれば、日本も台湾もなく、わし流。掛け湯をして、浸かる。温まったら、身体を洗う。そして、また浸かる。極楽、極楽と唱える。セントレアで展望浴場に入ってからずっとお風呂に入ってないので、久々に身体を綺麗にして湯に浸かることができるのは有り難い。
檜風呂をイメージしたような、高い天井の木造浴場。冷暖房無しで、温泉機能だけで体温を調節する。だから、湯外に出ると寒いかもしれない。台湾人は熱い風呂に慣れないのじゃないかと思ったが、湯はかなり熱い。日本人でも、慣れない人は長く入ってられない。一枚壁を隔てた薄暗い浴槽があるようなので、こっちを試してみたら飛び上がった。水風呂だった。あれは、嫌だ嫌だ、心臓止まる。若者たちの雑談を聞きながら、熱いほうで長湯をした。
温泉の後は、7-11でコーヒー牛乳を買って贅沢をした。花火だか爆竹だか分からない喧しい音(一晩中やってたぞ)のほかは、なかなか良い夜だった。
やっぱ素直に金龍のおばさんの言うこと聞いて、花蓮から直ぐ礁渓にこればよかった。温泉で2泊できるし、宜蘭を見たくても2駅戻ればいいのだし。でも礁渓を通過せずに済んだだけ良かった。これはおばさんのお陰。改めて謝謝。
(プラス・コラム)3ホテルの評価
格安ホテルに飛び込みで泊まるのは、この日まで。ということで、3晩の旅社について印象などをまとめておこう。
立地条件が旧駅の真ん前ということで、さすが安いが質は高い。ベッドの寝心地は3晩で最上。ただ、ガクッと来たのが洗面所。即ち水が出ない。トイレの水は流れるが、歯を磨けないし顔も洗えないのは閉口した。簡易浴槽は乾燥していたので、断水してから結構経ってる模様。
雑誌棚に日本のパチンコ攻略法誌があって笑えた。成人大衆雑誌もあったので、一般台湾社会はどうなのか見てみる。たとえば、女優ヌード写真にしてもAVの一コマ画像にしても、とにかく乳首が消されているので旨みが半減していると感じた。勿論陰部はモザイク。柔肌だけで感じたり、消されている部分を想像する程度でヌける人々なのだろうか。日本も嘗てはそうだったらしいな。つまり日本が大胆になってきているんであって、台湾はまだ日本の失った感動を保っているのかもしれない(笑。
- 華賓旅社@宜蘭
宜蘭駅から延びるメインストリートの最初の(若しかすると2つ目だったかも)ブロックを右折すると、緑の看板が見える。お寿司屋さんの隣だ。駅前を歩くと、すぐに五州大旅社などが目に付くから、裏道にあるここは目立たない存在。でも客を迎える雰囲気は、駅前の数軒に勝ると思える。
部屋は広いが、壁が薄く感じた。窓があって光が漏れるし、外からも刺し込む。ベッドも、だだっ広いマットの上に薄布団があるだけの簡易物。でも洗面所は水が出るし、新しい歯ブラシが置いてあるし、ハードはナニでもソフト面では600元なりのことはしている。それと、洗面所の電気をつけると、同時に換気扇が廻るので空調設備も悪くない(この日は雨だったので、折り畳み傘をここで干しておいたら翌朝には乾いていた)。学生旅行歓迎としているくらいだから、安くてもあんまり軟な設備だと拙いんだろう。金龍のように、俗社会を思わせるものはなかった。
- 華欣旅館@礁渓
温泉溝公園起点(入口)と、中正路を挟んで斜め向かいほどの位置にある。公共温泉施設を先にチェックしてあるので、そこからあまり遠くないホテルを探した結果。中正路は、台湾の田舎町にしては珍しく(と思った)、アーケード状になった歩道が両側にあり、覗き込まないとフロントやロビーの雰囲気が分からない。確かに、他の温泉旅館と比べれば、客を寄せ付けないオーラが多少はあった。
同じくらいの高さの建物に挟まれているので、部屋には外の光が入らない。しかし、バストイレは3晩で最も良好で、管理人さんが湯も出ることを目の前で実証してくれたし、アメニティ環境も申し分ない。ただ、やられたのが、掛け布団がないっ!であった。ベッドの質は安ホテルとしては普通で、華賓と同じくらい。それはいいが、まだ台湾でも気温は12〜3度で、暖房も使いにくいから、掛け布団が欲しい。焦った、探した。そしたら、テレビの下のガランとした棚に、四つ折で押し込んであった。ぉぃぉぃ。
つづく