先日、ゼミにおける状況が急変した。担当教授が入院された為に、次年度のゼミ担当者変更を迫られたのである。中国や東アジアを専門にできる担当者は数少なく、学科長の説明では、「台湾という地域を専門にしている方は、この学部では他には居ない」だろうということである。新たな選択に向けて1週間ほどの猶予期間を与えられたが、台湾という地域的な問題に関しては、まず解決されないだろうと思われた。1年半前は、台湾という地域に重点を置いてゼミ選択をし、漠然とした台湾と日本の関係について見ていくつもりでいた。その漠然さが祟って、先学期末にはイメージ論が通らず、教授と冷戦状態に陥った。こうした状況を踏まえて先学期の宿題に取り組むにあたり、日本との関係に拘らず、「台湾の戦後史」あるいは「台湾の近現代史」に重点を置いてみることにした。
発端は、省籍問題の象徴である「二二八事件」を探ろうと考えたところにある。省籍問題は、台湾を知る上で一つのキーワードとなる。具体的な一事象を追うことで、イメージ展開を卒業し、知識を深めた上での新たな研究にしようと考えた。このテーマで期末レポートをほぼ成立させたが、諸事情により提出には至らなかった。
先月、実際に台湾を訪れ、現地生活では省籍というものがさほど影響力を持つようには思えないことが判明した。現在の政権下では、省籍を越えた新台湾人の構想が主流となり、大陸人も本省人も原住民も含めた新たなアイデンティティが形成されつつある為であろう。そこに敢えて「省籍問題」を研究する意義があるかどうか、自問した。一方、二二八紀念館では実際に経験された方の話を聞き、いかに台湾において事件が大きな傷跡を残しているか、改めて実感させられた。二二八事件以後、数十年に渡って戒厳令が敷かれ、暗黒の時代が続いた。しかし現在、その台湾には中国本土よりも発達した民主政治が定着しつつあり、経済は市場主義の下に飛躍的に向上している。
今回の事態に際して、台湾という地域の問題は解決できないが、台湾における民主化の過程という政治的変化を抽出することで、新たな分野選択の幅が広がるのではないか。二二八事件を起点に戦後史を探り、蒋介石時代から蒋継国、李登輝に至るまでの過程を求めれば、この変化を解くことになるのではなかろうか。
結:卒論はこの方向で進めようと思う。【2006/03/15/AM】