南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

経国先生を知る(『台湾総統列伝―米中関係の裏面史』記録)

f:id:Nanjai:20131215204320g:plain
 先稿では、李登輝総統の二面性について、論じた。結局、今我々が見ているのは様々な環境を通して蓄積された愛台感情だ。彼は、戦中は日本人として生き、戦後間もなく地下の共産党に身を置いている。そして学業を安全に続けたいが為に国民党に入籍し、蒋経国の下で人事や政治手法について学んだ。その誠実さを買われて総統に進んだが、いざ最高地位に就いてみると台湾独立へと暴走し始めたのだった。しかし『台湾の主張』でも、蒋介石時代を認めている。かの独裁体制なくして当時の共産党新中国政権と張り合うことはできなかった、一つの過程であると評している。全てを糧としながら、その基盤の上に台湾の建設と独立の信念を培養してきたに過ぎない。
 李登輝に関するまとめは以上で終わらせ、本稿では台湾総統史で注目すべきではないか、と思い始めた人物について記したい。これまで筆者は蒋経国なる人物を、全く念頭に置いてこなかった。いわば空白の時代となっていたのだ。台湾の民主化過程を考える上で、蒋介石李登輝の間に、如何なる時代が存在したのか。それを一通り知る機会となったのが、今回の書籍である。
 蒋経国とは、如何なる人物だったのか。若き頃、ソ連に留学し、共産主義に傾倒した。その為、政策思考には共産主義の傾向が見られ、徹底した汚職追放や行政改革を大陸南部で施行した実績を持つ。台湾に逃れると、「特務の黒幕」と呼ばれ、数々の事件を陰で指揮したとされる。父の死後、安定的に総統の座を譲り受けると、嘗ての実績どおり徹底的な汚職追放などの改革を講じ、クリーンさを維持する。さらに、直接対話や訪問を通じて、国民に親しまれるリベラルな総統を目指した。しかし任期半ば、世界情勢は大きく転換する。外交で頼らざるを得ない米国が中国と国交正常化、中華関係は断絶される。さらに中共側が台湾に対する政策を転換。民国としても、これまでの大陸反攻から、対大陸関係の転換を迫られるようになる。また、こうした情勢の中で民衆の民主化を求める動きが活発化。外的かつ内的な圧力を踏まえて、経国は晩年矢継ぎ早に政治的民主化を遂行してゆく。
 概略として、蒋経国時代をまとめてみた。結:蒋介石時代が三民主義を主軸に置き中共との対決を意識した体制を維持していたのに対し、経国時代は内外からの圧力との調整の過程によって、改めて自由・民主化を進める必要が出てきた、といえる。【2006/05/31/PM】