南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

隔年恒例のペルセウス座流星群観測@恋路峠〔後編〕

月明かりに照らされて

日付が変わるまでに、なんとか雷光は収まった。あれがチラチラすると、どうも心臓に良くない。
仮眠をとったり、パンを食ったり、自慰したりして晴れにくそうな曇りをやり過ごした。第二のピーク時とされる午前1時、再び外に出る。ここから3時間は集中してがんばりたいところだ。まずまず晴れてきては、いた。
が、今度は今年のペルセウス座流星群観測における最大の問題点である、満月近い月明かりが大きく出てきた。今月の満月は9日で、まだ3,4日しか経ていない。相当な明るさで出てくるだろうとは予想していたが、その威力は夜中でも私の影をつくりだすほどだった。目が慣れてきたのと月の威力によって、懐中電灯なしで小屋から駐車場まで階段を下りた。もう地面のごみまではっきり見える。これでは流れ星どころではない。月はほとんど南方向で、到底沈みそうにない。今年は障害が多すぎた。
まぁ、でも月が綺麗に見えてきたということは、それだけ雲が流れればすっきり晴れるのだということだから、月を木々で隠すようにして空を眺めれば望みはあるだろう。
しかし結局は、月の周りだけ晴れて、それ以外は曇っているという厭な状態が続いた。

観測内容的にも、身体的にも、冷え込む冷え込む

ピーク時になっても流れ星どころか、それらしく晴れてもくれない。そしてだんだん冷え込んでいく。夕方に思い切り雨が降った上、標高500m以上の峠。寒さが増してくる。Tシャツにジャンパー一枚は堪えた。眠さも影響してるのかな。持参したお茶が空になったので、タイムリーで買ったカフェラテを口にする。先にこっちから飲み始めればよかった。眠さだけでも払拭できるのに。3時になってカフェラテを飲んだ為に、4時半以降なかなか寝付けぬ羽目になった。

2年ぶりに再会

と、
突然3時半に差し掛かるころ、一台の車が峠へ上ってきた。かなり不意を突かれたので小屋の明かりなどが付きっぱなしだった。その車は眼下に止まり、二人組がランタンや寝袋を取り出し始めた。頭ではなんとなく分かっているのに震えがとまらない。そう、一昨年会った二人だ。下の民宿に泊まっていて、空が晴れていたので何気に登ってきたら私がいた、というハプニングで、一緒に星空を眺め過ごしたのが2年前。この場所がとても気に入ったらしく、この小屋を買うんだとか言っていた記憶がある。むしろ私も、今夜彼らが来るんでないかと期待すらしていたくらいなのに。
トイレを済ませ、彼らは階段を上がってくる。そしてご対面。紛れもなく、彼らだった。「この小屋で寝させてもらっていいですか?」と聞いてくる。「荷物を置いてるだけですから」と答えるものの、マジにここに寝にきてるのか、と改めて驚いた。多少ぎこちない時があったものの、まったく久々の再会だった。というか、いつ考えてもこれは不思議な出会いなものだ。
2人はあれからも毎年ここでお盆の時期を過ごすのだそうだ。先回のおかげでこの小屋の存在を知ってからは、テントも要らず寝袋だけもって来るのだという。さらに驚いたことに、峠のふもとにある「柿其の里」という特産品売り場のおばちゃんと親しくなって、この小屋の電灯がつくよう頼んでおいてくれたという。だから今年から電気がつくんだそうだ。あと、ガスがつけば住めるな、などと話した。彼らは今夜、仕事を終えて直行してきたので、これから眠るという。私は再び静かに観測を続ける。

諦めて3時間睡眠

真東に山があるので4時半でもほとんど明るくならないが、ほんのり曇った状態は変わらないので、ゼロで諦めた。冒険も出会いもあったけど、本来の目的はちっとも果たせてない。ま、そういう年もあるだろう。去年だって11日の夜は見えたけど、12日はだめだったからな。去年はここじゃなくて、北海道。
寝袋も何も持参していないので、床にビニールシートを敷いてそのままごろり。カフェラテと固い床の影響でいまいち寝つけない。

静かに朝日に照らされる野尻宿

7時に起きて、パンとカフェラテを手に展望台へ。正面に野尻の集落が見える。右手の山陰からちらちらとこぼれる朝日が反射して、田畑の混じる集落はとても輝いている。起きたてで体はぶるぶる震えるほど寒いのだが、こんな美しい風景はそうそう見られるものじゃない。人の声は皆無。鳥のさえずりと早起きのセミの声だけが耳に届く。流れ星が見えた夜も、見えなかった夜も、この早朝の展望台から望む光景はすがすがしさを感じさせる。それをおかずに食べる朝飯は、どんな貧弱なものでもうまい。

朝の柿其渓谷を歩く

相変わらず二人は寝ているので、挨拶は控えて荷支度して峠を下った。まだ9時半の午前中最終電車まで時間があるので、渓谷を散策していく。恋路橋を渡って、峠で拾ったごみ(あまりに汚かったので善意で掃除)を処理。戻って牛が滝を目指す。日が差し始めたこの時間でも、さすがに渓谷は涼しい。釣り人の脇を抜けると、コバルトグリーンの綺麗な天然プールが現れる。渓谷にきたら一度は飛び込んでみたいと思うような、すばらしい水だ。その奥に、どことなく牛のごろりと横になったような形を思わせる滝がある。さっきのが天然プールなら、この滝は見ようによっては天然滑り台になる。水流によって、滑らかな曲面を彫りだし、頭を保護しておけば滑れそう。これまで家族で来たときも、この滝は見ているはずなのだが、今日はなぜかずっと見ていても飽きなかった。
恋路橋の下の川原で、柿其の冷たい水を顔に浴びてサッパリ。すんげぇ気持ちがいい。足までつけたかったが、タオルを忘れた。
何度も来て道を知っているし、ほとんど下り坂なのでここから十二兼駅まで1時間はかからない。日は照っても暑さをまったく感じない柿其集落をの〜んびり歩く。民家の水場に冷やされた大きなスイカ。夏野菜実る畑。林と家々が交互に現れるのどかな田園風景。最高にリラックスできる。残念なのは、その生活道を嫌なスピードで走る、レジャー車両。柿其へキャンプなどに行くのだが、なんとなく風景を壊していく。
十二兼駅手前の八剣神社に冷たい水がこんこんと湧き出る水場がある。そこで最後の休憩をして、手や顔をギンギンに冷やして駅へ。電車は、昨夜野尻駅で中津川行きの時刻を見ておいて、そこから算出した時刻を頼りに歩いてきたのだけどまだ余裕があった。

まとめ?

んー、一回目は雲行きが怪しく雷もひどかったけども、流れ星は満足できた。二回目は、突然人が登ってくるというハプニングがあったけども仲良く星空が見えた。今年はどちらもあったけども、星空は満足できなかった。しかし、月は綺麗だったし、涼しい渓谷を歩いて暫しの休暇になった。成果はなかったとはいえない。まぁいろいろあるでしょ。
(おわり)