南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

洛阳編3:洛阳古墓博物馆,关林,帰路

2晩続けて腹下しと歯痛に見舞われ、洛阳のみで切り上げることを決断した。体調不良のときは3食食うべし、と今日は朝飯に大米粥と包子を食べる。少し量が多いが昼と夜にあまり食欲がわかないので、食べられるときに食べておくのも良い。次に、今夕乗れる列車の切符を買う。もう3度目なので、少し慣れがある。当日乗車する切符を買うのは初めてであるが、とりあえずあれば良い。〔列車情報:K246次、洛阳18:02発-开封20:38着、无座28元〕 これで帰りの足が確保された。ホッとする。

洛阳古墓博物馆

駅前から83路の公交に乗る。牡丹祭りの会場となるのか、国际牡丹园なる大きな公園の近くを通ったりする。そんな公園も見えなくなって、左右雑木林に挟まれた道路上に、ポトリと下車。林道のような道を北へ伝っていくと、この博物館はある。付近に駐車場があって、高級車なども寄せられるようになっている大仰な入口だが、あまりにしんとしていた。提出した学生証にはほとんど目もくれず半額(10元)になる。
この博物館は非常に面白い構造をしていて、ほとんどの展示室が地中にある。墓(石室)本来の姿を、存在する場所に復元したのはなかなか粋だ。地下にロの字型に順路を設けて、時代順に廻れるようになっている。辺の部分にあたる通路には所々小さな入口があって、石室へ踏み入り内部を観察することができる。博物館は空調が悪くて、むっとするほど暑いが、石室内はひんやりしていてバテかけた身体に渇を入れてくれる。壁面には古代文字も再現してあるのだが、残念なことに心無い落書きが入り混じっている。暗いトンネルのような通路上にも、ささやかなイルミネーションが光る。若干温度差のあるところを出入するうちに疲れも出てきたが、この小さなにじり口を入って墓を見学するスタイルには惚れた。四つ角の部分には時代ごとの資料が展示されている。部屋のど真ん中に学芸員らしい人物が座っているが、何か食ったりしてかなり暇そう。
この博物館で一つ、面白いものを体験した。ある石室回廊の中で、入口に女性が座っている。妙だなと思ったところへ声をかけられ、何がなんだか分からぬまま5元取られて、その奥へと通される。内部は古代文様の刻まれた金属器が並ぶ、実験室風の部屋。水の張られた二種類の鍋が置かれている。一方は何でもない普通の金属器だが、もう片方は濡れた手で縁を撫でると、フワンフワンと奇妙な音が共鳴する。これは龙洗(または龙洗盘)といい、皇帝が手を清めたあとに愉しむ楽器として用いられた。表面に龍が施されているため、龙洗と呼ばれる*1。この共鳴音を自ら体感できる、というのが5元の趣旨なのらしい。聴解がまだまだなこの日本人にも、大変丁重に分かりやすく説明してくださった*2。こないだも韓国人が来たよー、とのことである。貴重な体験を謝謝。
館内を見終わって、その奥(あるいは館の上?)にある今はソーコと化しているらしい建造物を外観から眺める。干支の石像か何かが並んでいたっけ。これでなかなか満足して、小さな庭園らしいところに座って小雨のやむのを待っていると、職員らしき男性が「裏の墓は見てきたかー?」と声をかけてくれる。ここの人は何となく親切である。言われなかったら行きそびれたかもしれない。館の西のほうへ畦道みたいなのがツツーッと伸びていて、その右手に小山がある。これがその墓なるもので、長くて薄暗いスロープをどんどんどんどん降りていくと、巨大な石室に行き着く。これぞ、古墓博物館のもともとの母体であり、地下にあるとはいえ作り物だった館内と違って、本物の墓である。規模も迫力もひんやり感も別格だった。
湿っぽい天候の中、もと来た道を火车站まで戻って、昼飯。駅東側の食堂で米线を一碗。回転のよい店だったが、メニュー的にやや居心地の悪さを感じる。でも食欲がその程度なのだから、仕方がない。

关林

関羽の首が埋葬されているといわれる、全国にある関帝廟の総本山的な景勝。白马寺と龙门石窟を結ぶライン上にあり、昼休みがてらに立ち寄ることも可能だけれど、日程上中日は郊外スポットを優先したため今日に残った。嘗てはここも“郊外”であったが、現在は経済技術開発区(洛龙区)内に取り込まれ、市内の範疇に入った。なお、景区の近くに关林火车站があり一日数本の列車が停車するが、洛阳火车站からの運賃は市バスより高くなるし洛阳市外からの利用も不便なので、まず視野に入れないほうが良い。個人的には、关林站から市外へ発する列車に乗る形で、利用に挑戦したいと考えている(ネタで)。
行きは何路に乗ったのか分からない。東の洛阳桥ではなく、牡丹大桥か王城大桥を渡って、市政府のある洛南新区の真新しい幅広な道を何度も右に折れ左に折れして、酔わされそうになったのを覚えている。地図に掲載された路線案内では、このような経路をとる路線は一本もない。まぁいいや。そういえば、この辺りには隋唐城郭が残っているはずだと思ったのだが、森林公園になっているのか、外部からは分からなかった。洛南長途ターミナルと关林市场では乗降が目立った。龙门大道から東へ少し入ったところに、景区はある。关林を経由するだけのバスも、このT字路まで進入してくることがある*3
すぐれない天候の中、ここを最後に選んだのは正解だった。雨具を持参しなかったが、小雨程度なら防いでくれるほどの木々が充分に茂っていた。これは翠柏だそうである。今回の旅で唯一、学割の使えない景区で、30元。大門と大きな広場を挟んで、舞楼が建っている。商丘の火星台と似た風景である。さて、どこでも見られる関羽像でも、その規模は伊勢神宮と近所の氏神様ぐらい差があると思う。许昌のは奈良の大仏なみにでかかったが、ここでは柏森(日本の地名みたいだぞ?)に収まる拝殿に落ち着くべく、ちょうど良い大きさだ。雨を受けてお香も湿り気味。少林寺のときのように、靄がかかったような薄暗さの中に、鐘楼などがぼんやり浮かび上がる。しかし何といっても見所は塚だろう。塚、廟、林の三点が一緒に祀られた景勝としては国内唯一とされる。塚を有する廟など、後にも先にもそうそうお目にかかれない。廟の最奥にある、首塚关冢。「お社の後ろにある古墳」といった感じ。裾が開けているので、ぐるりと一周できる。一つのなだらかな丘が、他の关帝庙より一際威厳を感じるし、武神のリアリティを増長させる。
戻る頃には、凌ぎがたいほどの雨量になっていた。

4時間遅れの発着

しばらく庇を探して駅前に佇んだ後、少々早いが晩飯とする。向かいの食堂で蛋炒饭。これも出た量を頑張って食べる。とにかく食欲不振がいかん。
これでダイヤどおり、いや21日中(寮の門限である23時半に間に合う時間としての)に帰り着いていたら、まだ出来はいい。が、この後、往路の30分程度なんか屁にもならない記録的な大遅延を経験することになる。2階の待合室に入り、待つこと待つこと発車予定時刻から4時間。降雨の影響か、経由してくる線路上に貨物列車などが込み合ってダイヤを乱すのか、その理由は定かではない。ちなみに、この列車は成都発(扬州行き)である。同じように成都を発してきた列車がどんどん追い抜いていくのが、電光掲示板に表示された改札開始の広報から読み取れる。とりあえず、同時間帯に开封へ行く列車はいくつもあるのだから、車次変更がきくようにして欲しい。ある郑州行き列車の改札を見送ったとき、郑州でもいいから、と合わせてそう思ったものだ。近距離利用の場合は融通のきく切符も発行できるように。この先正常に2時間半で運行されても、寮に今夜中に無事帰り着けるタイムリミットである20時半をも超えた時、あぁまた駅で寝るのか、と思った。ここまで来たら、いっそ午前3時くらいに乗れて、开封に着いたら朝になってる方が効率がいいなと。このような状況のなかで一番過酷なのは、まったく休まらないことだ。ダイヤどおりの改札時間を待つなら、目覚まし設定して眠っていてもいい。ところが今は、ズルズル遅れ幅が広がる中で、いつ改札が宣告されるか予測できない。ひたすらボウッとしながら、時折キオスクを冷やかしてベンチを換えつつ起きているしかない。
そうして、ちょうど4時間遅れで乗り込んだ列車は、また満員であった。通路まで立ち人で埋まり、自分は便所と対面する壁にもたれて、これも寝るわけにもいかず耐えることになる。成都発の列車は混雑する、と後に聞いた。郑州を過ぎたところで、眠そうにしているのを見かねたのか、通路席の男性が「ここに座れ」と席を譲ってくれる。「次で降りるから」と一度は断ったが、彼は断るための嘘だと思ったようだ。降車の際、「マジで开封だったのかよ」とつぶやいていた。しばし休ませてもらえたのは有難かった。時刻は0時過ぎ。ひでぇ話だ。時間を読めるとふれこみの鉄路が、こんなことをしていいのかと愕然とさせられた。少し慣れが出てきた鉄道利用でも、こういうことも時にはあるという良い?勉強を早い段階でさせてもらった。
初めての开封下車は、こんな形になってしまった。客引きに連れられて簡易宿へ。パスポートを見せたらやはり戸惑われて、ついでに学生証を見せ河南大学の留学生であることを示して少し落ち着いてもらう。テレビ付の狭苦しい部屋をあてがわれて、20元。即寝る。

22日、朝帰り

疲れたのか、夜遅かったからなのか、9時近くまで寝てしまった。外はジトジト雨模様。身支度をして静かに退房する。足元があちこちぬかるんで危うい道だ。初めて开封に泊まった(笑。物凄く見慣れた駅風景の、少し裏路地へ入ったところだったことが分かる。公交で帰寮。(服務員に「戸を叩けば開けてあげたのに」と言われてorz)
体調不良など、なんともアクシデントの多かった旅であるが、洛阳だけでも基本箇所は見られたことで良しとしよう。

(map:洛阳关林)

*1:龍は皇帝の象徴。

*2:ちょっと気になる口臭を除けば、最高の解説員である。

*3:このことから、55路(唐宮路経由の关林行き)か、81路(龙门石窟発关林経由の火车站行き)を利用したはず。いずれも運賃は1元。