南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

西安見聞路の旅 1:西安へ,回民街

8時間の列車の旅

洛阳のときと同じK617、6時55分発の列車である*1。今回は始発から終着まで執着して乗る。2,3日前から、努力して6時起床を試みたが、ちっとも駄目だった。そこで非常手段を用いて、ネットしたまま徹夜する*2。5時半ごろシャワーを浴び、チキンラーメンを無理に食べて、片付けもそこそこに部屋を出る。外はまだ夜の装いだが、毎年恒例の理容コンテストが開催中であり参加者が早くから出入りするため、既に宿舎の門は開いている。さもなくば、冬などは旅行と言えども外に出してもらえない。服務員がまだ寝ているからである。時間を買ってタクシーに乗り、駅前に着ける。
閑散期も混雑期も、この一つの体育館の中はさして変わりない。時期的に帰省人と旅行人が半々になった列に入り混じって改札を受け、列車に乗り込む。K617は当駅始発のため、駅舎を出たスグの1番線(本来は東方面用)より乗車できるので有難い。そして今回の座席は「下01号」。どこかと思えば、1階への階段を下りた正面の1人席。構造上通路上にあたり足元が騒がしいが、車窓は望めるし(バックだけど)前後左右に人が座らないので気楽。座って間もなく、私の席の横に女子学生がスーツケースを置きに来た。一応私に許可を求めたけれど、勝手に置くのだから自己責任半分で。私とは向かい合わせになる中段席に、欧米人バックパッカーが座って、隣り合わせた中国人の若者と話している。加わりたい衝動半分、英語に疲れる嫌悪感半分で眺めて過ごす。ちなみにこの混雑期でも、階段や通路に座り込む客はなかった。
列車は約10分遅れで発し、洛阳までは昼間移動の経験がある、そろそろ見慣れた車窓。灵宝までは夜間移動で来たことがある私の西端、そしてその先は新世界ということになる。とくに三门峡市の大U字カーブ区間は晴天の下で曲がってみると圧巻。しかし、河南を出る頃には、日本で5,6時間のローカル線の旅を経験している自分でも、いい加減くどさを感じ始める。8時間は寝過ごさないだろう、と各区プチプチ眠ったり、MP3を聴いたりしたが、さすがに疲れた。乗継などがないからかもしれない。座ってれば楽というのは間違いである。华山とか渭南に達して、漸くわくわく感が混じってきた。時刻表の予定より30分遅れて、15時過ぎに西安到着。西安の改札も割りと甘く、使用済み切符を確保。エコノミークラス症候群も怖いし、硬座ではトイレも行きにくいし、長距離の両端乗りは過酷であった。

YHチェックインと現地準備

城壁に接するように鉄道が通っており、駅前広場を真っ二つに仕切るように城壁が横切っている。という見方もできるし、駅を出たら市内に入るには城壁をくぐらねばならないともいえる。出迎えの人ごみを抜け、壁内の便所でスッキリしていよいよ西安市街へ。真正面右手に西安汽车站がそびえ、せっかく南に開けている駅前広場の壁北側も南側も薄暗くしてしまっているのは残念だ。その站入口前(と解放路側)が市バス乗り場だ。L字型の乗り場地帯を端から端まで歩いて、603路を探す。結局站口前にあった。先日ネットから予約しておいた西安書院国際ユースホステル西安书院国际青年旅舍)は、この603路に乗り南门(里)で下車する。ところが、このバス二階建て式なのに物凄い混雑度で、まず2本ほど見送ったが、漸く乗ったのでもあっという間に満員になって全く降りる余地がない。城壁をくぐる箇所もあるし、さして狭い道を走るわけでもないので、これは2階建てにして階段スペースを作るよりは多少長めの大型バスで運行した方が無難。まぁ、あと数年で地下鉄が開通するので乗車率が下がるまで待つつもりだろうか。結局南门では降りるタイミングを失って、次の停留所から引き返してきた。これは別路線、別ルートを探す必要がありそう。
开封の南门は門を取り壊して壁の両端がむき出しだけれど(小南门のほうは必見)、さすが西安、南门(永宁门)は大変立派である。南北交通量の多い南大街の流れに挟まれた一角から城壁に登ることも出来る(これはまた明日の話)。色鮮やかな中華建築が映えるホテル(永宁宫大酒店)の裏手、城壁沿いの道を西へ僅かに入ったところにYHはある。これと反対にホテルの北側へ回りこんでもYHがあるが、これは別の一軒。西安はいまや市内に7,8軒のYHを有し、選べるまでになった。どんどん数を減らしていく日本のYHとは対照的。さておき、チェックイン。ドミトリー1泊40元(非会員)×6泊で240元と押金100元を払ってしまうと、もう列車の切符を買う金がない。二つ目の中庭から2階に上がった部屋で荷物を置くと、フロントで銀行の場所を聞き、再び外へ。
南大街を北へしばらく行った右手に建設銀行がある。このATMで200元下ろして財布が温まる。そのまま進んで钟楼から駅行きのバスに乗る。そのまえに朝飯以来何も食べてない腹を宥めるため、豆腐条を一皿食う。さぁ今日の一仕事、帰りの切符を買う。春節の繁忙期のため售票处の外にも仮設の売り場が設けられているが、敢えて中で並ぶ。さすが西安ともなると、横に20〜30ぐらい窓口が並んでいるけれど、時期も時期だから各列また2〜30人ほど連なっている。学生とか工人といった特殊なのがついてない窓口を選んで並ぶ。事前にピックアップした候補は、昼間に西安を発し、門限までに帰り着いてしまおうという列車だったが、先の8時間乗車を経て、やっぱ寝台にしようと切り替えた。西安22:54発-郑州06:44着の2612次*3をベスト候補に据えて望む。ところが卧铺を取れなかった(まぁ時期的に仕方ない)ばかりか、车次も違った。駅員がしきりに「20日だな」と確認するので変だとも思ったが、臨時列車(临客、頭文字L)であった。発着時間がほぼ一緒なので、切符を受け取って確認するまで気がつかなかった。Lは、春節と五一、十一のゴールデンウィークおよび夏休みの繁忙期に運行される、期間前に公表される臨時列車*4で、既成の通常ダイヤに挿入されるため追い越されが多く、また停車駅数も多め。そして、型の古い空調なしの列車を使用することが多く、運賃は他より安くなる。希望の切符は買えなかったが、密かに狙っていたLについにめぐり合えてラッキー。表に、西安に発着する今季のLが一覧で張り出されている。運行日などをあらためてチェック。〔列車情報:L126次 西安23:24発-郑州08:45着 硬座36元〕 惜しいのはこの列車、西安始発の上海行きで、开封も停まる。ここは开封までを買うべきだった変な切符購入。何事も後に欲が出る。
駅前で地図売り婆から観光地図を3元で買ってYHに帰る。603に懲りたので試しに40路に乗ったら、誤って文昌门(外)で降り一区間歩いた。正しく乗れば南门外に着いて、結構使える路線。YHの周りで食堂を探すも、あんまり入り易そうなのがない。外国人旅行者はどこで食ってるのかな。ひとまず部屋に帰る。

回民街

さっき私と同時にチェックインした青年に、「この辺で普通に飯食えるとこ知らない?」と尋ねる。「いや自分も知らない。一緒に食べに行こう」ということで、またすぐ外に出るのだが、こうして知り合ったのが前半戦の旅の友、谭鸿文君である。「西安名物と普通の飯とどっちが食べたい?」と聞くので「名物料理の方がいい」と答える。ここからそう遠くないところに、レストラン街でもあるのかな。南大街の道すがら自己紹介的な会話。彼は重庆出身で西南政法大学の学生*5総合政策学部卒の私にはとても身近に感じる。実際たった2日ほどの間によく議論した。彼の今回の旅はもう中盤を過ぎて、华山や灞陵(桥)などに行ってきたらしい。
钟楼の地下はサカエチカと見間違うほど綺麗で、楼もこの地下から登る。それを南東から北西に抜けて、西へ進むと鼓楼。この北裏に回民街が延びている。これは、回族の食堂および屋台街で、この南北の通りと清真大寺に続く東西の筋で構成される西安の名所。土産用の乾燥果物やら数多の小吃が張っている。「何でも気になるものがあったら寄ってくれよ」と彼は言うのだが、初めて入るところに目を慣らすだけで大変。結局鼓楼から程近い食堂に入って、西安名物の羊肉泡馍をさっそく初日から戴く。肉は大抵どの店も牛と羊の2種類あるが、羊の美味い地域なので羊を採る。最初につけ合わせが置かれて、何だ面倒そうな食べ物かと思いきや、泡馍にお好みの量で載せるだけである。デビューは手際が分からないので、彼に附いて箸を取る。パン粒に案外量があって、米でないのに腹がふくれる。スープも強いクセがなくて宜し。旅の間何回か食べようと思った。ちなみに今回は谭君の奢りである。
一度歩いた道は、基本的に間違えないし方向感覚を失わない自信がある。まだまだ初日なので屋台で遊ばず、後日に取っておいてYHに帰る。そうそう、このYHでは毎晩ドリンク一杯の無料サービスがある。ウェルカムコーヒーは逃したが、宿内のナイトバーでビールを一杯。まったく初日からいい出来である。
さて、計画では明日早速兵馬俑始皇帝陵に参ると意気込んでいたが、谭君と商量した結果、兵馬俑は明後日にして明日はゆっくり近場を歩くことに。せっかくの旅だもの、自分の計画に拘らず他人と歩くのもいい。この夜もう一人、武汉大学の青年が同室したが、彼は随分気ままな性格で結局我々の誘いには応じなかった。人間いろいろである。
つづく

*1:〔列車情報:K617次 开封06:55発、西安14:44着 硬座 82元〕

*2:今回旅行中に風邪をひいた元々の根源はこれにあると見ることもできる。西安の気候も関わっているだろうが、開始段階における低体力がベースにあったのではないか。

*3:郑州からは郑开城际公交で。また郑州までのほうが、これがダメでも選択肢が豊富になる。

*4:期間中に随時増便されるのは按时临客、頭文字A。滅多に見かけない。

*5:西南方面の訛りなのか、Xi'nanがXilan(nがlに聞こえやすい)に聞こえて初日は聞き取るのに苦労した。