あんぐう、と読む。口があんぐり、ではない。
辞書にはときおり、ある意味の分からない語に対して、詳細な解説を付さず尚更馴染みのない代替語を置いて終わらせるものがある。分かりやすい代替品ならまだしも、さらにユーザーを困惑させる代替品などまったく解説に値しない。
中日辞典で行宮(Xinggong)と調べる。意外にもちゃんとその語は載っていた。が、行在所(あんざいしょ)と一語ポッキリであった。普通の日本人は行在所なんて知らない。第一、ワードでアンザイショと打つと、「行在所」ではなく「安在所」となる。この違いだって何なのだ。
仕方がないので国語辞典に賭けてみる。
あんざい-しょ【行在所】名《「あん」は唐音》→あんぐう。
なるほど。行宮は、あんぐうと読むのか。
あん-ぐう【行宮】名《「あん」は唐音》天皇行幸のときの仮御所。行在所(あんざいしょ)
これで意味が分かった。もちろん中国では、天皇でなく皇帝である。行幸は「ぎょうこう」なのに、行宮は「あんぐう」と読む。同じ場面に用いられても、漢字の読みは異なるのである。
中日辞典に始めからこの10数文字の解説が付いていれば、国語辞典に頼ることもなかったのである。このわずかな手間が辞書に対する信頼を左右することもある。まぁ私は愛用しているから構わないけれども。