(信越の旅 2:上越よりつづく)
ホントに一睡のみの滞在だが、国道沿いにもかかわらず静かで快適に休まった。早朝のテレビ番組で、母語ロシア語と母国語ウクライナ語の狭間に悩む在邦ウクライナ人女性のドキュメントが印象に残った。
十日町
盆地の朝は肌寒い。駅までの道すがらをちょこっと散策していく。駅と逆方向の城山(松代城跡)は諦めた。昭和町通りを南に入ると、智泉禅寺。境内の枝垂桜が朝日を浴びて綺麗だ。
山門全てが一本の欅で造られたと伝わる。(智泉寺ホームページ)
指定席券売機はない十日町駅の窓口で、信州ワンデーパスを購入。JR東日本管内の長野県のJR線としなの鉄道北しなの線の一部を利用できる。北しなの線を含むのは大事で、飯山線と長野駅の間(長野~豊野間)に別途料金が発生しない。昨日までの2日間利用したえちごツーデーパスと1日なのに大差ない価格も、途中乗降自由と北しなの線分を加味すればまぁ納得。
JR飯山線の旅
JR飯山線は、これまで乗ってきた長野県内の各ローカル線と比べても思い入れが強かった。住んでいる愛知県から見て最も遠方へ延びていく路線だけに、未知への憧れは募りつつも行程組み立ての難しさでなかなか手が届かないでいた。今回のプランに編入されるまでに最も検討されたのは、只見線との接続で福島会津への道のりを形成するものだ。雪国と温泉のイメージが強く、途中下車はさんで一日で通り抜けるよりは戸狩野沢温泉のYHに泊まるのを理想としていた。
今回、長野から名古屋までの帰途も一日に含めると、飯山線途中下車の旅はけっこう手強かった。一番のネックは戸狩野沢温泉駅を境に越後川口方面へは本数が激減することだ。せっかく温泉イメージの飯山線なのだし、日帰り温泉を一つ拾っていきたい。進行方向で順に乗降すると難しく、ローカル線途中下車でわりと使う手法、「ちょっと後戻り」にする。うまく説明しづらいけど時間の有効活用になる。
さて8時半、十日町駅を出発。薄緑色の気動車に見覚えあると思ったら、小海線と同じだ。お母さんが運転士さんに「お願いします」と言って、幼い姉妹だけで列車に乗り、越後田中駅でおじいちゃんに迎えられて降りていった。飯山線は信濃川に沿って山あいを縫うように走る。本旅は信濃川との絡みが目立ったな。「信濃川&日本海の旅」でもいい。ディーゼル列車で大きな川を左右に渡りながら走るのは、なんだか高山線に似ているな。そう思うと、飛水峡みたいな岩場の峡谷もある。
新緑の山なみの奥には、まだ冠雪の峰々が見える。帰宅後に調べると、方角的には谷川岳や苗場山だったようだ。また沿線でも終日日陰になるような斜面には残雪がチラホラ。
県境を越えると長野県栄村だ。東日本大震災の翌日ぐらいに強い地震が起きたところとして記憶に残る。駅名もこれより、越後○○から信濃○○に変わる。今回途中乗降する飯山市や戸狩野沢温泉は、飯山線全体でも結構長野寄りなんだな。戸狩野沢温泉が真ん中ぐらいだと思ってた。戸狩野沢温泉で乗継をして、北飯山。
北飯山
北陸新幹線と接続する飯山駅よりも、北飯山のほうが散策に適していると思った。飯山城址公園と雁木の町並みが近い。
飯山城は、緩い丘の上に築かれた平山城。信濃国に勢力を伸ばしてきた武田氏に対抗するため、上杉謙信が戦略拠点として本格的に築城した。丘の裾には石垣は見られないが、本丸の部分に残る。
本丸跡には葵神社が建つ。
本丸が川を背にしている点は小諸城みたいだな。アレ?同じ千曲川か。日本一長い信濃川を実感。
400本のソメイヨシノが咲き乱れるという、「飯山城址さくらまつり」も見てみたい。
石垣以外で唯一の古式建造物。民家に残されていたのを移築したそうな。
飯山線を西に越えると、雁木通り。上越市高田のを見た後だからか、そう見栄えのする雁木ではない。老舗の仏壇屋がズラリと並んでいるのが特徴的。
純金の金箔トイレがあるという、お休み処奥信濃 展示試作館を興味津々で訪れるもあいにく休館日。また、カフェを併設している高橋まゆみ人形館は信じられない入場料に引いてしまい、雁木通り界隈はちょっとテンション下がった。
気を取り直して少し足伸ばしたのが、飯笠山神社。飯笠山は地名「飯山」の由来ともいわれ、七福神の一人恵比寿様がまつられている。
www.iikasayama.com
本旅の観光締めくくりに拝む恵比寿様。
いいやま湯滝温泉
堂々駅名にもなっている戸狩野沢温泉は、戸狩・野沢の両温泉地とも駅から離れており、日帰り入浴には適さない。とにかく列車本数の少ない飯山線沿線では駅近が必須条件。見つけたのが戸狩野沢温泉の隣、上境駅スグのいいやま湯滝温泉 | 長野県飯山市の日帰り温泉。
千曲川右岸で湧出する温泉。550円の手ごろな料金で日帰り入浴を楽しめる。入浴前に食堂で特製カレーの昼ごはん。アクリル板に仕切られた窓辺のカウンター席で、千曲川対岸の新緑を眺めながらの食事は和む。
ちょっと窮屈な思いをした六日町温泉とちがい、ちょうど良い深さの湯池に身体を沈め脚を伸ばすのは最高に気持ちいい。内湯でも十分開放感あって野山が鮮やかに見える。ここの男湯露天風呂は奇妙な構造をしていて、屋外へ出ると背丈より高い木柵の回廊を大きなコの字型に回り込むようにして行かないといけない。しかもコの字の両端部は上り下りの階段だ。地図で上空から見ると、たぶん女湯露天風呂との目隠しを工夫するためだろうけど、今より寒い時期だったら凍える回廊を敬遠してしまいそうだな。ただ、内湯と外湯それぞれの側に脱衣所があり、予め選ぶことはできる。内湯と外湯を直近で往来できるのが必ずしも当たり前ではないということだ。寛ぎすぎてどっちに衣類があるか忘れたらヤバいよな。そんなこと考えながら、千曲川のせせらぎを聞きつつ露天に浸かる。回廊はともかく、湯池は川面より高いところに造られているので、食堂ほども川辺は見えない。むしろ湯に浸かると山々さえも低く感じられ、熱冷ましに縁へ上がったときしか山肌は望めないかな。それでも混みかけた食堂よりは人気も少なくて静かな温泉を楽しめた。湯上りに八ヶ岳牛乳飲み、列車ギリギリまで寛いでく。
車での利用客が圧倒的に多く、一日10本に満たない上境駅で訪れる人は滅多にいない。現在無人の棒線駅だが、島式ホームの痕跡と貨物ホーム跡が残る。また駅前の県道脇には貨車が1両寂しく佇んでいる。
13時前に上境を発した列車はしかし、次の戸狩野沢温泉で30分停車する。万が一温泉で寛ぎすぎて上境を乗り損なっても、およそ3.5㎞、走ってくれば何とか間に合いそうだな(?)。身体が温泉ですっかりほぐれ休息モードに入ったため、長野までほとんど転寝に沈んでいた。新幹線乗換駅となった飯山駅が真新しく整備されてるな、くらいしか車窓の記憶がない。廃線となって久しい長野電鉄木島線の痕跡が対岸に見える可能性もあったのに、全然注視せず。まともに目覚めるころには北しなの線へ乗り入れていた。午前中に信越境界の沿線風景を堪能できたのは価値あったな。
帰途
長野駅での30分待ちはお土産購入に充てるつもりだったが、初日の小千谷で早々に確保済み。軽食を買い、もっぱら発車前の電車内で過ごす。篠ノ井線を鈍行で行くのも初めてなのに、プロ野球速報を逐一追ったりして真っすぐ帰宅モード。スイッチバック方式となる姨捨駅のみ印象に残る。ちなみに車中はほぼ満席で、寝ていけるほど楽な体勢にもなれず。松本で快速みすずに乗り換えて塩尻。みすずは特別料金不要なんだね。そして、信州ワンデーパス利用エリアはここまで。塩尻駅の16分間で、勝川までのきっぷをみどりの窓口にて求めないといけない。30分も余裕のある長野駅で買っておきたいものだが、原則乗車駅でしか普通乗車券のみは買えないのと、そもそもJR東日本でJR東海の乗車区間は売れないわな。幸い窓口はすいていたが、係員がやや執拗にしなの特急券併売へ誘導してくるのには閉口した。「普通乗車券のみです」と語気強めに指示した。そんなに儲けたいか、JR東海。
長野県の一番長いところを一日で突っ切ってくるのはさすがに疲れたらしく、温泉も醒めてくると座席に沈み込み見慣れた中央線車窓にすっかりダレてしまう。20時ちょうど帰着。飯山線をのんびり過ごせた分、帰途はとにかく長かった(長野を発って正味5時間)。
はじめての新潟県(南部)周遊の旅、隣接の長野も併せて遠さと広さとを痛感した。日本海と信濃川、それぞれに恵まれ育まれた特色を垣間見ることができた。3日間あちこちで目にした雁木も、雪国ならではの工夫が現代に至るまで大切にされていると知った。日程上ちょっと圧縮ぎみな周遊だったので、次回は佐渡や下越地方も含めてゆっくり巡る機会を作れたらと思う。
完