南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

伊豆黄金路の旅 1:土肥

去年は西日本から台湾にまで至ったから、今年は東國をめざすか。正月につづいての静岡行きとなったのはまだ偶然。
紀伊半島一周の旅のような、半島の輪郭に沿って岬を通る旅をいくつか考案している。知多半島や房総半島は企画しているけど、ふと伊豆半島でできないかなと思った。西海岸に沿った鉄道はないから、バスで巡れないかな。伊豆エリアを網羅する東海バスに、フリーきっぷ「2日券」「3日券」を見つけ石廊崎と下田などを中心に半島一周を模索。すると、こんな乗車券を見つけた。
www.izudreampass.com
18きっぷのないシーズン、静岡県を在来線普通運賃で東西移動するのは難儀で、清水から土肥へ渡るフェリーを一度は利用しようと考えていた。その駿河湾フェリー東海バス伊豆急行線をセットにして3日間で3700円は、東海バスのみ3日間よりお得感ある。惜しむらくは、石廊崎がルートに含まれないこと。一番南寄りを通る黄金路ルートも下田まで。下田から石廊崎まで片道1000円ほどかかることから、今回は断念した。当初の半島一周イメージとはやや逸脱するけれども、家族旅行の伊豆長岡修善寺など付け根や内陸は訪れている伊豆半島、沿岸部は中学の修学旅行で行った子浦以来で楽しみだ。
jaike.hatenablog.jp
また、黒船来航から日本を開国へと導いた下田の歴史に触れたい。シリーズ名は一周や周遊を当てづらくなって悩んだ末、メインで利用した伊豆ドリームパスのルート愛称をそっくり拝借。ゴールデンウィークらしくて一目でシーズン分かっていい。

鉄道乗車記(鉄レコ)「2024.5.1 - 3」 乗車距離523.1km by Nanjaiさん | レイルラボ(RailLab)

三遠を越えて

三遠とは、三河国(愛知県東部)と遠江国静岡県西部)のことで、この二国を突っ切り駿河へ。ひたすら東海道を上るのだが、18きっぷのないGW、この往来は我なりに節約と工夫を凝らした。まず、豊橋までは正月と同じなごや特割2平日を使う。購入月の翌月1日まで有効だから日を跨いでも帰れる*1豊橋以東について、3日の復路は祝日だから、青空フリーパスの静岡版、休日乗り放題きっぷを利用。熱海から豊橋まで一度も出入りしないが、普通運賃よりお得。さて、平日かつ2720円に及ばない今日の豊橋~清水間は、普通にICで乗車する。それでは芸がないから、乗継の組み合わせで運賃を安くできる箇所を執念深く探した(参考:加佐登 - 南蛇井総本氣)。すると、乗換なしで2310円のところ、焼津で一旦改札出入りすると1690+420円で200円浮くことが判明。焼津でお昼にうまい魚食っていこう。(ほかに、静岡鉄道線を乗り鉄する案も出たが、新清水駅駿河湾フェリー無料シャトルバス乗り場の接続不便で廃案)
あいにく朝から曇り時々雨の天候。雨雲が西からずっと追ってくるので、終日好転はない。車中はほとんど転寝か株の値動き気にして過ごす。40分滞在の焼津では海鮮の店を目星つけてくるも、駅周辺が思いの外寂しげだったので離れず、駅前のたこ焼き&スマイル(たこすま)で豚しょうが焼定食。お好み焼きなどの鉄板メニューが主力だけに、焼き肉の食感が絶妙。たっぷりの刻みキャベツと合わせて頬張るのが良い。

焼津駅

焼津の鮮魚と温泉はまたの機会に。静岡市に入ると雨脚強く、もう降りやむことはなかった。

駿河湾フェリー

清水駅きっぷうりばにて、明後日の休日乗り放題きっぷを購入。JR東日本管理の熱海駅では新幹線乗換口しか扱わないので、予め確保しておく。
東口(みなと口)バス乗り場の末端に、駿河湾フェリー無料送迎バス乗り場があり中国人の家族連れを中心に集まっている。その発着時刻掲示には、「外国客船の寄港に伴い、乗船場所がマリンターミナルから日の出ふ頭へ変更」の旨が記されている。出発直前にHPチェックしてこず些か動揺するも、送迎バスに乗れば間に合うのだろうと任せる。マイクロバスは満員で発し(後発臨時便ありか?)、S-PULSEドリームプラザを過ぎると港のほうに青々とした巨大な壁が出現。これぞ寄港中のクルーズ船、セレブリティミレニアムだ。でけぇ... マリンターミナル付近には欧米人の姿も見える。横目に過ぎて、港倉庫群をも回り込むと、プレハブの臨時券売所へ着く。乗船券を購入して再びバスへ戻れとの指示。こんな仮設所じゃ、もしや伊豆ドリームパスは発行してくれないんじゃ、と不安抱くも係員の背後に同チケットが見えて一安心。ここまでで3日分の交通費を全て支払い、きっぷ等に替えた。
停車するバスの目前に黄土色の船が見えている。腹にGOLD ROADと書かれていることから、金色に見せてるのらしいw 実は黄金色に塗装したのはつい最近のようだ。
hellonavi.jp
黄金路の旅に相応しい船出となりましたね。再出発したバスは船首まで乗船客を送り届ける。券売所から十分歩けるほどの距離だが、この悪天候には助かる。全容を一瞥して足早に乗船。

フェリー富士

近年回数が増して、船にはちょっと乗り慣れ感がある*2。このフェリー富士小豆島フェリーと似たサイズだな。出港前に船内を散策すると、後方デッキにて県道223号の烙印を押した大判焼きが売られている。
shizuoka-hamamatsu-izu.com
この駿河湾フェリー航路が静岡県道223号(語呂合わせで「ふじさん」号)、甲板に番号標も立っている。好天なら航行中、駿河湾越しに富士山を拝めるということで、「富士見」の語呂も併せ持つ。結構楽しみにしてきたのだが、窓ガラスに雨粒叩きつける始末で全く望みなし。

富士見焼き

薄皮に温かい餡子がたっぷり詰まって美味しい。焼き肉と甘味で満たされ、暫し昼寝。

土肥金山

土肥港へ上陸

船に乗ってくるとつい、離島上陸の気分に浸ってしまうけど今回は同じ本州w 雨降りしきる中の不穏な着岸。西海岸は今日がメインなのだが、夕陽はおろか青い海原さえも望めず観光施設に留まるのが無難かな。
土肥金山は港から程近く、風雨を堪えながら歩く。旧東海道を思わせる僅かな松並木や、最古といわれる天正金鉱が目に留まる。

土肥金山

江戸時代に開発され、明治から昭和にかけて佐渡金山に次ぐ産出量を誇ったという、土肥金山。1965年に鉱量枯渇のため閉山し、金のテーマパークとして一般公開されている。往時の坑内めぐりや、砂金採り体験ができる。砂金採りを省いた入場料は1000円。こんな天候での坑内めぐりは、風雨をしのげて大変有難い”屋外展示”だ。

観光坑道入口

地熱で蒸し暑い坑内には、採掘方法や坑道の構築、江戸時代の作業者の様子などが保存または再現されている。坑道は総じて平坦だが、ところどころ狭隘や頭上の低い箇所はある。

坑道の様子

坑道の崩落は死活問題であり、梁との間に噛ます丸木は天井の形状に合わせて調節している。

金色輝く鳥居の山神社

今や流行りの金運パワースポットだけど、当時は坑内安全祈願が最優先だったろうね。
鉱脈を求めて掘り進むに従い、湧出する地下水を汲み上げて排出する必要が生じる。その水替え作業を再現した巨大な洞窟は、今も大きな池が澄んだ水を湛えている。温かい地下水で銭を洗う黄金の泉とともに見逃せないのが、

昇竜に見える、金鉱脈

また坑内を換気する風廻し作業も欠かせない。鉱石の採掘だけでなく、坑道のメンテナンスにも多くの人手や技巧を要したことが窺える。そうした坑夫たちの休息と憩いの場となったのが、温泉の坑内風呂だ。蒸し風呂の奥に女性の湯浴みも再現している。歴史を受け継ぐ土肥温泉は、今夜堪能する。
黄金館では、採掘した金を精製して延べ棒にする工程(ジオラマ)や輸送法、金山によって栄えた土肥の歴史に関する資料が展示されている。土肥金山は、足利幕府の金山奉行が盛んに金を掘ったのがはじまりとされ、徳川幕府に入って本格的に開発が進んだ。江戸時代初期に新技術も導入して産出量が増大し、「土肥千軒」といわれるほどに隆盛をきわめた。いちど衰退して休山するが、明治期に再び外国人技師を招聘して探鉱し、昭和にかけて産金量を誇ったという。
黄金館、いや金のテーマパーク最大の目玉は何といっても、

ギネス認定!世界一の巨大金塊

底面225×455mm、上面160×380mm、高さ170mm、重量250kg。時価25~26億円(2023年)。素手で体感することもできる。これとは別に12.5kgの延べ棒を持ち上げるコーナーもある。幅こそ掴めるサイズだが、重くて容易には浮き上がらない。これらを記念して、金塊のミニチュアを模した金運ストラップを友人への土産に買う。自身はじかに触れたご利益で充分。

恋人岬

せっかく買えた伊豆ドリームパス、初日をフェリーのみで終わらせるのは勿体ない。ホテルの夕飯に合わせて18時までに戻れる範囲で、乗り降り自由な東海バス沿線スポットを選んでいた。有名な堂ヶ島はちょっと時間不足、散策時間をとれそうなのが恋人岬だった。激しい風雨にさらされる懸念もあったが、2時間持て余すので強行した。
松原公園方面を散策しつつ土肥温泉まで行って乗る予定だったのを、小康は到底見込めない雨脚に、土肥金山バス停でそのまま待って乗車。修善寺駅発の長い運行路線のせいか、やや遅れてくる。主要な交通系ICカードも使える東海バス、ICタッチ以外は整理券を取れとアナウンスされるので、素直に従う。海岸線のアップダウンが連続する国道を、点在する集落を結びながら快走する。

伊豆に3基あるというハート型の、恋人岬バス停

口コミ等によると、ここ(駐車場)から岬までの富士見遊歩道はちょっと距離や高低差があるとのこと。おまけに悪天候で足場が危ぶまれるかも。森の中をゆるやかに下っていき、視界が開けたと思うや、雨で滑りそうなアスレチック風の歩道がダイナミックに岬へと駆け下りてゆくのが一望できる*3。左手(南側)は崖状になっており、自然の桟橋を伝うような感じ。

恋人岬(愛の鐘)

男女二人が互いに鐘を鳴らし、その愛を確認したという古くからの民話に基づいて1983年、廻り崎を恋人岬に改称した。こういうスポットに独りで来るのはもう慣れた。中国人男女4人組が去ったあと、駿河湾の小さな突起から霧中の細やかな眺望を楽しむ。

富士見遊歩道記念塔

フェリー船上につづき、またも機を奪われた富士見。虚しく、その方角を見やる。三方海の岬に立って、駿河湾の潮風を浴びれただけ良し。

伊東園ホテル土肥

お茶の伊藤園ではなく、伊東園ホテルズ。当初松崎に泊まる計画だったのを、予約確保が間に合わず土肥港近くのこちらになった。通り崎バス停の真ん前だから、朝一で動ける。私には珍しく、朝夕2食付きの1泊。先述のとおり、金鉱の工人たちを癒した土肥温泉を満喫するため、夕飯は19時過ぎの予約チケットをとる。露天風呂こそないが、海側全面ガラス張りの大展望浴場。土肥温泉はほぼ無色無臭、ぬるいくらいの温度でゆっくりと浸かれる。座高の低い身にもちょうど良い深さ。闇にとけゆく海をぼんやり眺めながら、ついつい長湯してしまいそう。
朝・夕食とも大会場での和洋中バイキング。しかも生ビールはドリンクバーでのセルフ飲み放題。さらに5月末まで寿司フェア開催中。今日の海色こそ残念だったが、海鮮は存分食べまくる意気で来たので恥外聞もなく寿司集めしてしまう。バイキング向けだけに全て現地調達とは限らなかろうが、納得ゆく鮮度だった。ほろ酔いで、一巡目に保留した料理を拾ってくる。とくに魚の酢和え、名前何だったかその場で調べたんだけど失念。白身のさらさらした食感だった。

夕飯バイキング(寿司フェア三昧と、追加分)

会場は概ね家族やグループ向けと1、2人向けに席配分されており、後者は料理コーナーも挟んで入口に近くドリンクバーに遠い。生ビールジョッキを2杯とっておくような横着はせず、まめに注ぎに往来する。注ぎ口に大中あるのを知らず、中ジョッキに大を注ぎ溢れそうになるミスは犯した。家や近所の飲み屋じゃないので、食事が済んだら酒も収める。
酔いをほどよく醒ましてから、就寝前の入浴。ぬるめなので、他の温泉にありがちな火照って寝苦しいこともない。

(伊豆黄金路の旅 2:松崎・下田へつづく)

*1:日程設計を4月30日出発に誤ると、5月2日は無効なので注意。直前に一瞬ヒヤッとした

*2:南海フェリー(2018)、鳥羽市営定期船(2023冬)、小豆島フェリー(2023春)

*3:この帰りの登り階段を苦とするのだろうな