南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

『船乗りクプクプの冒険』1962年刊行

Nanjai2011-10-26
どうだ、古いぞ、スゲェだろう。これは1977年版の文庫だけれども、俺が手にしたとき既に十分紙面が変色していた。表題にテキトーに惹かれて祖母の家の書棚から勝手に持ち帰って読み、そのまま叔父から俺に所有権が移った。タイトルといい文章の調子といい、あっけらかんとしてテンポよく巧みに読者を釣り込ませていきつつ、意外なメッセージ力を持つ内容。北杜夫ってなんちゅう作家なのかと思ったものだ。いま手元に『幽霊』もあるのだけど、とても同一作者とは思えぬダークな様相で中々読む気にならない。個性の甚だしく濃い方なのか。
そんな氏は遂に、オッカナイ編集者に絶対捕まらない彼方へ、モーター・ボートを飛ばして走り去ってしまわれた。しかし後には大部分白紙ではない原稿が数々出版されて残ったのだから、やっぱりテキトーなようで締めが上手い人だ。