洛阳とセットで行く予定だった三门峡は、洛阳編で体調不良のため旅行を持続できなくなり、急遽切り離された。三门峡はその知名度に反して、意外にも『地球の歩き方』に掲載されている。おかげで河南省は、掲載スポット数最多省の一つである。同書における三门峡は市区観光のみで、陝州風景区と虢国博物館が中心、それで入場料が比較的高い。ところが、私がこの三门峡を目指す最大の目標は、同書に一切記されていない函谷关である。函谷关といえば、「箱根の山は天下の険、函谷関(かんこくかん)も 物ならず〜 (箱根八里)」とくる、あれである。箱根は、行ったことがある。作詞当時、東洋一の文明国家が、中国と自国を比較して優越感を導き出した様子が感じ取れるが、それでも箱根と比較する以上やはり似通った特徴があるのだろう。やっぱり実物を見てみたい。ただ関所という条件だけで比べて生み出された詞なのか、地理的なものをも考慮して2者を比較した結果なのか。
したがって今回の旅行は、函谷关を機軸に企画する。函谷关のアクセスはやや不便である。市区からは約30km離れた灵宝(Lingbao)县級市の一つの鎮にある。先輩の話によると、三门峡市内から直接景区行きのバスが出ているという。当初はそれを基準に、市内観光と函谷关のセットで2泊程度を考えていた。ところが、鉄路利用のコツが次第につかめてきたのと、函谷关の情報が拡充されてきたのに伴い、函谷关のある灵宝市へ开封から直接アクセスしたほうがベターなことが分かってきた。同市の公交1本で函谷关へアクセスできることが分かったのだ。また地級市内より县級市内のほうが、宿泊費が安く抑えられる。市区へ行く気がなくなった。灵宝から三门峡への鉄道移動は中途半端で、鉄路に慣れるとバスなど使いたくない。こうなったら市区飛ばしだ。しばらく市域を探した結果、市東部の渑池(Mianchi)县に仰韶村文化遗址を発見する。1921年に発見された新石器時代の遺跡である。仰韶文化の名の由来でもある。ただ、ここの情報量は今ひとつ。县城から北へ約9キロ、くらいしか分からない。でもせっかく見つけたんだし、とトッピングしてしまう。
そんなわけで、前述のように河南旅遊初の“市区飛ばし”三门峡計画がようよう完成。一日目、授業後に出発して灵宝に着き宿泊。二日目、函谷关を参観し、夕方か夜の列車で渑池に移動、宿泊。三日目、仰韶村文化遗址を探し出し見学して、帰途につく。市域内列車移動ってのも初めてだし、相当面白そう。
列車の切符は29日に購入、無座。別の列車なら席があると言われたんだけども、時間が良くないので敢えて選んだ無座。〔列車情報:1085次 开封16:51発、灵宝21:52着〕エアコン無しの4桁車番で、なんと快速を利用した洛阳と同額という、激安でござる。
さて、当日。20分ほど遅れて到着、発車。乌鲁木齐行きの長距離列車で、兰州や新疆方面の乗客が非常に目に付く。とくに、新疆人。まるで列車に乗った途端、国境を越えてしまったかのような錯覚に陥るほど、漢民族とは明らかに異なる顔立ちの人々に溢れている。長距離で、なお且つ普快のNO空と来ているから、余計西方の出稼ぎ層などが集中しているようだ。彼らの話す中国語は、河南の方言などともまた異なる不思議な音色である。どちらかというと、我々外国人の拙い中国語に近いが、それでも方言の一つとみなされるのであろう。ラサのテロ以来、何かと冷たい目で見られる彼らだが、車内では決してマナーが悪いわけでもなく、ときには漢人と気さくに話したりする光景も見られた。車内での盗難も彼らが主犯とされているが、疑わしいとは思えない。
出発時刻が半端だったので、夕飯を取っていない。いつもどおり連結部分でガムをかんだりして過ごすが、空腹に耐えての乗車は気持ちのいいものではない。そして、5時間は長い。途中、洛阳の手前で、洛阳东に停車。焦柳线との接続駅で、一等车站の格が与えられているが、貨物駅の役割のほうが大きいと思われ。それでもたまに、洛阳と洛阳东、2駅とも停車する列車もあるらしい。駅の話ついでにもう一つ。三门峡と三门峡西である。どちらも準主要駅で、快速などはいずれかに停車する。今回計画を作るにあたって、三门峡西から函谷关へのアクセスの可能性を探ったこともあった。が、この三门峡西という駅の実態がなかなかつかめない。いったい何のために、2駅存在するのか。一つには、三门峡は市区の駅で、三门峡西は陕县*1の駅という考え方ができる。しかし先述の洛阳の例に照らしてみると、前者は旅客専門駅、後者は貨物専門駅と捉えることもできる。もともと鉄道は貨物輸送のために造られたのであり、今ようやく旅客に重心が移ってきたばかりなのである。駅等級も、まだ旅客と貨物の両面を総合的に考慮して定めているように思える。
20分遅れを大体そのまま引きずって、灵宝に到着。切符は、逆らいがたい空気に包まれた駅員の回収作業によって没収されてしまう。客引きに押されながら、裏口のような出站口を出て、售票处に入る。でも時間が時間だけに購入客も数人で、窓口も1個しか開いてないので、別に今日でなくてもいいや、となった。まず駅前を適当に歩いてみる。やっぱり予想通り、兰考くらいの規模と雰囲気。駅西に並ぶ宿泊所を覗いてみて、さすがに簡易ベッドはやだなぁ、と一軒断ったところで、その隣のややマシな旅社を見せられる。少し寒いけれども、一匹で15元だし頷いてしまう。やはり县である。まだ晩飯を食ってない、というと、表の食堂で食えという。よって、夜食に近いが炒面を一杯食べて、宿代と同時に払って、部屋に戻る。鍵はくれないし、便所の場所も聞きそこねたので、無闇に探さず睡眠を優先する。出だしとしては、まずまず。
つづく
*1:2015年より陕州区。