快晴 ぜいたくで刺激的で最高の日。
本田さんは既に旅立っており、朝の部屋にはブライアンさんと山口さんと俺の三人。朝食後も、台湾人2人や同泊の何人かと写真を撮り合う。それでも、出会いには必ず別れがやってくる。たった1晩だったのに、10日くらい一緒に過ごした仲のように感じられた。俺は山口さんと二人で、台湾の2人と香港人女性の見送りに行った。YHの庭の中のような美馬牛駅のホームに立って、また写真を撮りあった。なぜかこの美馬牛駅には、アジア系外国人旅行者が数多く集まっている。中国語が通じるらしく、呉さん・鄭さんも盛んに皆と話していた。そうこうしているうちに、このYHの別れの時刻、8時29分(帯広行き)と8時48分(旭川行き)がやってくる。この別れの際に呉さんが撮った富良野線の列車の画像を、今俺はPCの壁紙にさせてもらっている。彼らが乗り込んだ列車は、手を振る俺らを残してカーブに消えていった。明日はわが身・・・。
YHに戻ると、今度は小平さんが車で旅立っていく。穏やかな笑顔で、俺らの国際交流に盛んに参加してくれた彼は、仕事でよく中国や台湾に行くそうだ。台湾の二人とも連絡先を交換し合っていた。
さて、ブライアンさんと山口さんと俺は、2連泊仲間(実は美馬牛でさっき別れた香港女性も連泊だったのだけれど)。少し身支度をして、今日のイベント「美瑛の丘巡り」に出発。
昼はレンタサイクル(MTB)で美瑛の丘を巡る。
美馬牛駅裏のレンタサイクルで、私はMTB、山口さんは原動付自転車を借りる。中々MTB借りる人がいないから、と奥から最新の物を出してきてくださるんだけど、私意外とノーマルなのに乗ってるんで、慣れるのがやや大変だった。YHで昨夜得たのと同じ地図をもらって、さぁ出発という頃、ブライアンさんがお店にやってきた。
見晴。広大な風景。
さて、どんな風に巡ったらよいのか分からない。とりあえずパノラマロード・コースを走り、後は体力の残存具合に合わせてパッチワークの丘・コースに入ろう、と決まった。初っ端から激しいアップダウン。そりゃ丘めぐりだもんな。先日支笏でずいぶん鍛えたはずなのに、昨日一日開けただけで鈍っていたようだ。山口さんは原付なので、結構楽に上がっていってしまう。すぐに50mは差がつく。私は普段から変速ギアをあまり軽くしない。というのは、軽くするとスピードが落ちてしまうからだ。勢いがつかないと疲れやすい。それで、結局きついまま登ってることになる。そして、何故か下りでも原付のほうが速い。どうも、最新の奴は普段貸さないため、両輪の回転が悪くなっていると見られる。下りぐらい、気持ちよく滑空したいんだけどな。そんなひと丘を登りきったところで、広大な農地の開けた風景が広がった。千歳川下りの日に見た野の比じゃないほど、広々として、あちこちに干草ロールが転がっている。後で別の場所で山口さんにも撮ってもらったが、あれは中々面白い。北海道でしか見られなさそうな一品だ。二人で、写真を撮ったり、ただ眺めたりして休んでいると、同じYHに泊まっていたバイカーが追いついてきた。彼はツーリングのベテランていう感じで、連泊だそうだが、今日は美瑛の丘を走るという。思えば、自分が北海道にいるのも郡上のツーリング連中に刺激されて、対抗意識から自転車を持ってきたんだけど、彼を見ると、ただ素直に格好いいと感じる。しばし景色を見ながら話し、「お先に」と去っていったが、彼とはまた拓真館で会う。
この丘の麓に、また巨大なひまわり畑が広がっていた。ここは写真スポットらしく、大勢の人でにぎわっているが、その大部分がアジア系外国人だ。日本人は僕ら二人くらいで、結構圧倒される。山口さんは香港人女性から写真を撮ってほしいと頼まれ、彼女がバッグから取り出した2,3つのデジカメで、ひまわりをバックに撮っていた。デジカメを2個も3個もって、友達に頼まれたんだろうか。プリントアウトよりデジカメそのものに彼女の写真ばかり収めて帰るんだろうか。なんだか面白いような不思議な感じだ。山口さんは、片言の英語で気さくに彼女と話している。僕も以前はこんな雰囲気が好きで、ブログWorld Scissorsはこういうのをテーマに始めたのだけど、最近は英語力も落ちたし、ちょっと敬遠気味。羨ましく思えた。
(因みに、自分がここで撮った写真がまた傑作で、ひまわりは全部ソッポを向いている)
拓真館
ひまわり畑から間もなく、前田真三という写真家が主に北海道富良野地方で撮った写真を展示する拓真館に。決して合成でない、自然が生み出した美しい配色が長方形の中にうまく納まっている。雪景色、夕焼け、高原、丘、農場、小動物。それらが絶妙なタイミングで、これほども芸術的になるのかと感動させられる。他にも、現代人が忘れ去っている日本の田舎風景を撮ったものが数多く見られる。絵葉書やカレンダーもたくさん売っていて、お土産にぴったりだと思ったが、それこそ絶妙な気分で買わなかった。
ベイクドチーズ&ストレートミルク580円
サイクリングするのに何も飲むものを持ってこなかったことを後悔し始めたのは、この頃だった。支笏では常に飲料に悩まされ、忘れるはずがなかった。そろそろちゃんとした休憩をしようと思っていたところ、ふれあい牧場に着いた。何かありそうだ、と入ってみたが普通の農場ぽい。「乗馬受付」と書かれた矢印の方に進むと、突然小屋から馬が顔を出した。まるで馬が受付をしてくれるように見えた僕らは、いろいろと馬に話しかけて楽しんだ。本物の受付は、その小屋の裏だったんだけど。
その牧場を突っ切ると、僕が兼ねてから昼飯にしようと思っていた「ビーフイン千代田」。10時に着いてしまった。まだ開店して間もないので、色々準備ができてないらしい。既に焼けていたチーズケーキとミルクで、北海道の本場乳製品を味わう贅沢な午前のおやつ。「旅をしていて、誰かとレンタサイクルして廻るのは初めてだ」と山口さんも言ったけれど、勿論自分だって初めてだ。YHで一晩過ごすのは幾度あっても、丸一日旅人と時間を過ごすのはそうあるものじゃない。家からも現実社会からも遠く離れて、今ここに出会った人と自分そのままに付き合う。これが旅だな、と思った。
しばらくして、ブライアンさんもこの店にやってきた。表に置いてあった僕らの自転車に気づいたんだそうだ。彼は、貸し自転車屋でもらったマップどおりに走っているらしい。僕らの知らない道があった。彼は朝少し体調が良くなさそうだったが、今見るとずいぶん良さそうだ。少し早めだけどお昼にしていたので、贅沢なおやつを食べた後だったが、彼の注文したビーフシチューが旨そうに見えた。彼とはどうしても入れ違いのようになってしまうけれども仕方ないし、時々会って様子を聞き合うのもまた楽しいので、山口さんと二人で再出発。
「ビーフイン」の裏に見晴台があるんだけど、この坂が強烈にきつい。砂利道で急勾配なので、MTBで頑張ってみたが途中から滑りつつ押す形になった。でも、この見晴台がまた格別で、イギリスの湖水地方を思わせる水沢ダムなど、まるで北海道って日本か?と感じるような異風景が広がっていた。さっきの牧場で申し込んだのだろうか、乗馬をしている人がいた。馬は臆病なので、そっとすり抜ける。この辺は集中的に見晴台が設置されていて、「三愛の丘展望台」では、さっきと別方角が拓けていた。ここには巨大な巻き巻きが数個置いてあって、子供が戯れていた。
ここからは一気に美瑛の町まで下る。途中で、一台の車がすれ違いざまに手を振ってきた。小平さんだった。僕らも手を振って応える。小さなことだけれど、書いているうちにフッと思い出す。後僅かで駅前というところの一軒の商店を通過したとき、「震度五弱」という言葉を耳にした。どっかで地震があったらしい。
パッチワークの丘コース
美瑛駅。ここでパッチワークの丘をどう回るか、お昼はどうするか話し合う。山口さんが、まだ行ける、というので、さらに「ケンとメリーの木」へ向かう。ここで僕は、やられたーと思った。このケンとメリーの木というのは、日産スカイラインのCMで使われたということを聞いていた。だから、ここにはスカイラインが置いてあるものと期待していたのだ。もぅよだれ垂らして見に行ったのに、木が一本立ってるだけだった。思い込みというのは怖いもんである。美瑛駅からまた勢いよく登ったので、さすがに空腹が来た。ここでとうきびとじゃがバターを頬張る。広大な農場を眺めながら、そこで育った旨いものを食べる。ジューシーなとうきびと、ほくほく詰まったじゃがいも。これが北海道。売店のラジオから地震情報が流れてくる。震源は、東北の太平洋側だそうだ。帰りの船に影響しまいかと、ふと気にかかる。まだ帰るのは先の話。ここを楽しもう。
ケンメリの木と並ぶ丘の名所、セブンスターの木。大きく開いたポプラの木。いずれも右手に木、左手に駐車場と売店があって、今考えるとどちらでジャガイモを食ったか思い出せない。確かこっちは、やや細めの道をぐいぐい登って、途中で山口さんの電動付と試しに交換しながらたどり着いたところのように思う。
アップダウンはとてもつらかった。美瑛ポテトの丘YHの前をとおり、北西の丘展望公園で休憩。ここでプリンシェイクを見つけた。ここには立派な展望施設があるけど、どこに立っても絶景だと思う。
午後のオリジナル・サイクリング
これでパッチワークの丘コースもほぼ回ってしまい、あとは地図を見ながらオリジナルで進む。富良野線伝いに南下し、ときには道路整備中のぐじゃぐじゃな路面を行くことも。山口さんの自転車では厳しかったろうな。
四季彩の丘でまた一服。ここでラベンダーソフトクリームを買う。もぅマネーは気にならない。存分食べたい。ここを出るとき、またブライアンさんと会う。彼は僕らと違って無理なくこの辺りを楽しんでいる。それもまたイイ。
これで大体戻ってきたんだけど、まだ夕陽の時間までちょっとある。再び富良野線を渡り、ガイドブックでも知られた「かんのファーム」へ。色とりどりのラベンダーが咲き乱れる丘。ドラム缶をつないだような可愛らしい機関車を見て、二人で笑った。
Goshの珈琲。
4時か5時ころだったかなぁ。最後に行ってみよう、とマップ見ながら決めていた場所。自家焙煎珈琲Goshというカフェ。僅かな民家とほんのり差し込む西日に包まれ、大地の風を受けながらウッディチェアで贅沢な珈琲を味わう。一人で来たら絶対にできない。珈琲通じゃないので、メニュー見て弱ったが、一番お勧めっぽいGoshブレンドを頼んだ。至福のとき、ってのはまさにこれだと思う。旅というのは時にこんなことができるものだ、と。
このお店で、女の子二人と母親らしい家族を見かけた。彼女らとは再びYHで一緒にすごす。
美しい夕日。
クリスマスツリーの木が見える丘。僕らを含めて4,5人しか集まらなかった、意外と知られない夕陽スポットである。もぅ一日こぎ回って脚はガクガク、露出した肌は何となくヒリヒリし始めていたけど、そんな長いようで短かった昼一日が終わっていく。北海道10日間の中で一番熱くしてくれた大地と人と太陽に感謝。使い捨てカメラでは太陽は撮り難いと思ったので、目に焼き付けるオレンジの光。デジカメが羨ましかった。
実は、自転車の返却時間がかなり迫っていた。ほとんど下り坂だったのが幸いして駆け込み。日の入りと競争だったのよ。
YHでは新しい出会い。酒飲み交流。同郷の青年に会って好感。生き方に刺激を受ける。他にも最高の出会い。
まだ明るいうちに、日焼けした肌を我慢しながら入浴して、夕食。向かいの席に、ライダーらしいごつい体格の2人があって、少し緊迫する。ところが打ち解けてみると、1人は愛知出身のタメで、高校時の知り合いにつながりがあることがわかった。これであっという間に今宵の夜会は始まる。各々ビールやチューハイを一缶空けてから、2つのテーブルに分かれ、「ダンディーな」ワイン組と「男気あふれる」地酒組が互いに掛け合いながら盛り上がった。中にはブライアンさんと誕生日が同日という方もあって、一夜の友にそんな偶然もあるのだなぁと。山口県から鉄道で旅をしてきて、今日昼ごろの東北地方での地震も幸運ながら抜けてきた学生もいた。YHの会員証を忘れたことに途中で気づいたが、後戻りしなかったのが幸いしてここにたどり着けたそうだ。さっきはとっつきにくいと思った50代くらいのライダー風の方は、実は列車で旅している気さくな人で、地酒「男山」とつまみのチップスを奢ってくれた。ワイン組の中に韓国人もいて、あまり積極的に騒がなかったが英語のできるブライアンさんとよく話していた。
談話室に移ると、同郷の有馬君が面白いことを紹介してくれる。即ち、全国から夢を描いたハンカチを集め富士山の頂上でそれを掲げようという企画*1で、彼も団体の実行委員として、旅をしながら出会った人からハンカチを集めているのである。我々も協力して、各々白い布にサインペンで思い思いの夢(または夢を意味するもの)を描く。(ビールと男山でほろ酔いの私は何を書いたか覚えていない。)世の中を明るくしよう、小さな一人一人の夢を集めて大きなものを成し遂げようという、趣旨は決して難しくないが行動力の大きさを感じさせる活動に、この旅の中で一番刺激を与えられた気がする。脱帽。そして、こういう意義あるものに出会えたことに感謝。
0時過ぎ、酔い覚ましと喫煙のために外へ出る。即席の星空案内は私の出番であり満足感。
就寝直前、昨夜の呉さんたちから感謝のファックスが届く。旅のアドバイスはしたけれど、こちらこそ存分に楽しかったですよ。
つづく
(そういえば今日は誰かの誕生日だったなぁ...)
*1:詳しくはhttp://www.fujiyume.com/参照。後日、新聞等でも取り上げられていた。