南蛇井総本気

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

美濃「赤白」ぶらり下車の旅

「赤白」というのは、美濃赤坂と美濃白川のことで、これは赤坂から白川へ移動する途中で気づいた。白川を主軸にしようと思ったが、時刻表で検討した結果、温泉だけなら2時半に着いてもいいや、ということで、大体半々になった。3日間労働してだるいので、朝早く発てないなら赤坂をはずそうと思った。けれど、仕事じゃない、というのは、結構楽に起きられるもんである。
9時に家を出て、2500円の青空フリーパスを購入。幾分端折って、名古屋で特別快速米原行き(一部大垣止まり)に乗り換え。車内は行楽客で混んでいる。まぁいつものことだ。稲沢の手前で、左手の車窓にすっくと聳える奇妙なタワーを発見。こんなもの、今まで目にしたことが無かったので、近年の建造と見られる。高さはたいしたものでもないが、周辺に高層なものが滅多に無いので、やけに目立つ。というか目立たせるためだろうけど、一宮の木曽川河畔タワーに対抗するものかと。岐阜を過ぎても乗車率が高いので、もしやこの人々、今日の赤坂でのさわやかウォーキング参加者かな。
と思ったが、大垣で米原まで行く前方の車両に乗り換える人のほうが多かった。美濃赤坂線ホームに向かうのは、主として中高年であるが、にしてもその数は平日や普段の休日の比ではないだろう。今日は、同線美濃赤坂駅から、東海道線垂井駅まで約10数キロを、中山道沿いを中心に歩く、さわやかウォーキングが開催されている。このことは前々日から知っていたが、コースマップがもらえれば赤坂散策の手助けになると逆に考えて、偶然の鉢合わせっぽく紛れてみることにした。
美濃赤坂線のホームって、2番線の延長上にあるのを知らずに、一度階段を登ってしまった。結構無駄だったが、まだ列車は入線していなかった。柵にもたれて、発車していく快速や近鉄養老線から三セクとして再出発した養老鉄道を眺めている。
誰に話しかけるとはなしに、「今日はいい天気だ」と声がした。さわやかウォーキングを熱烈に愛するようなおじさんである。振り向かなければ何も起こらなかっただろうけど、互いになんとなく話し相手の欲しい者であったので、自然に会話になった。青空フリーパスを利用し、ウォーキングスタンプも集めている熱心な方であった。参加すれば、似たもの同士話ができるし、休日はそのほうがいいらしい。にしても、快活にうまいこと話を合わせてくれるので、初対面でもよく弾んだ。もう自分のプランなど捨てて、一緒に垂井駅まで歩きたい衝動に相当駆られたが、際どいところで温泉がまさった。惜しかったなぁ。おじさんも惜しそうな表情であった。ともに美濃赤坂線の電車を待ち、ともに乗り込み、座席に落ちていた赤坂のパンフレットを眺め、車窓を眺めながら、時のたつのも忘れて会話した。そして、終点で改札を出ると、また明るく別れた。また何処で会うとも知れないが、今度は一緒に歩きましょうや。たった2駅の路線が、彼のおかげで心に残るものとなった。祝・JR東海旅客路線全線制覇。
さて、他のウォーカーとまた新たな会話に入っていった彼を見送って、コースマップだけ受けとった私は、とりあえず約100m皆さんと一緒に歩く。旧中山道に出たところで、サヨウナラ。赤坂で一番やりたかったのは、美濃赤坂駅からさらに北へ続く貨物線、西濃鉄道の線路をたどること。まぁかなり暑い天候の中、これを徹底して遂行したのはある意味失策であった。というのは、この線路自体はほぼ廃線なのだろうが、セメント工場は現役であって、その中を突き進むことになるからだ。最初の乙女坂駅までは住宅地の裏を進み、なかなか風情があってよかった。神社の参道を横切る貨物線。列車が来るシーンも欲しかった。乙女坂が現在の矢橋工業の中心地。今はトラック輸送に成り代わっているが、工場の真ん中を線路が突き抜けているので、覗き込むこともままならない。外の片側ギリギリ一車線を市橋駅目指して歩く。これが最悪であった。左に気味悪く濁った排水溝、右に追い越しすれ違う大型ダンプの黄砂、上から直射日光。こんなところを歩く旅人が異常なのであった。まるで工場萌えなのではないか。
まぁその甲斐は多少あって、ホッパー跡などが寂しく残る市橋駅を、工場地帯から少し外れてやや落ち着いた場所で見ることができた。台湾の平渓線の終着駅がこんな感じだった。ちなみに乙女坂から市橋までの西側を見ると、見事な禿山である。鉱産資源のために破壊されてしまったのだが、それが徐々に南方向へ動いているのがわかる。かつての工場跡が市橋なのである。線路をとにかく北へたどって、最後の最後レールがぷっつりなくなるところまで、この目で確認。やや満足。
もう一つ、美濃赤坂駅ホームの南端付近から、西北方向へ生える同鉄道の貨物線がある。こっちも少し齧った。市橋まででバテたので、この線は大久保駅を訪ねるのみとする。普通の人なら「こくぞうさん」で親しまれている明星輪寺や金生山化石館を訪れるのだろうが、それを通過すると、大久保駅である。ここは市橋よりも荒れていた。わずかに貨物駅らしい施設が寂れて見えるほかは、背丈ほどの草ぼうぼうであった。早くつぶして駐車場にでもしたほうが有効な土地利用ではある。ただ、ここは駅よりももっと素晴らしいポイントがあった。大久保駅美濃赤坂から北進してきた列車が、昼飯(ひるい)駅へ向けてスイッチバックする場所でもある。大久保駅と旧中山道との間に、その分岐がある。ここも二度と列車の通らない小さな踏切があり、そこから各方面の線路を眺めると感じるものがある。昼飯へはぐいっと右カーブして民家の裏庭へと消えていくし、美濃赤坂へは中山道を踏み切った後、左へ緩やかに去っていく。そして大久保。これを見ると、駐車場にはできないな、と思ったりする。腹減った。
貨物線に拘ってしまったので、古墳も国分寺も赤坂港跡も行けなくなった。旧中山道は道が街道らしいだけで、交通量が多くて微妙。ただ、昼を食うところだけは決めてあった。それは勝山の山頂である。登山口が見あたらなかったので、勝山斎場の裏手、即ち墓地を突っ切って無理やり侵入した。途中で散策道に遭遇できた。この勝山というのは、関ヶ原の合戦徳川家康軍が陣を構えたところで、標高53m。太平洋戦争中は高射砲台もおかれた。大垣市内が一望できる丘陵で、昼飯。誰だ、昼飯駅で昼飯にしろ、とかいう奴は。家康が、箸を持ちながら弁当を一口も食わぬまま、合戦を眺めたといわれる場所だから、わしも平野を見ながら弁当。時折電車の音が響くので、赤坂線のかと気になったが、これは東海道線のものらしい。一服して爽快な風に浸る。前半戦でかなり酔った。安楽寺の裏に下って、赤坂駅までは5分。
13時に美濃赤坂を出て、1時間半後に白川口へ着く。大垣と岐阜でそれぞれ3分乗り継ぎだから、楽。高山線は定鉄と同じ気動車であり、このローカルムードを味わいたくて。ちかごろは飯田線ブームなようだけれども、紀勢線や高山線のようなキハモードも又吉。まず鵜沼あたりまで昼寝をして、その先は特有の振動と車窓を味わう。下呂や高山と違って、白川は太田からそんなに長くない。手ごろな温泉地だと思うのだけど、近年は寂れているみたいよ。以前子供のころに、よく下呂や小坂へ特急で行ったのだけど、白川口は美濃太田という都市部を出て最初に停まる田舎駅であった。そのころは白川は遠いところのように思っていたけど、今は一人で神岡にまで行く時分であるからそんな奥地のようには感じない。
そんな白川口に、はじめて降り立った。いつも車窓から、白川町の町並みは、鉄道と飛騨川をはさんで対岸に小さく見えていた。だから駅自体は狭いところにあるように感じていた。実際、駅前には国道しかないと言ってよい。川と車道とに挟まれ張り付くように数軒の店舗があるが、どれも鄙びている。
喉が猛烈に渇いていたので、コンビニを探した。今飲む分だけでなく、これから約1時間スパランドまで歩かないといけない。ペットボトルでないと足りない。貴重な土木遺産である白川橋を渡って、町に入るも、山村を嘗めてはいけない。コンビニエンスストアという言葉は存在しない。雑貨屋ならあったけど、望むものはなかった。たしかに寂れて観光客は一人も歩いていないけれど、かすかにまだ温泉町の薫りが残っている白川である。4,5軒くらいは温泉宿やってるのかな? その雰囲気が多少良かったので、水分代わりに吸い込んでスパを目指した。
その道のりがまた良いのなんのって。車一台通れる程度の道幅なんだけど、左手に群青の飛騨川を眺めながらの、涼しい木陰の遊歩道。まったく飲む物なんか要らなかった。めったに車は通らないし、時折沿道に茶畑などがあって落ち着ける。暑い中をむやみに歩いた赤坂と違って、癒される。ただ、往路は知らない道なので長く感じられた。
その遊歩道の終着がスパランド。裸で入る温泉と水着ではいる温泉、そしてプール利用の3種類があって、温泉入浴は450円。14種類のお風呂がある、と聞いていたが、実際に裸で入れるのは2種類だけ。ま、この辺は謎だが、450円では十分だ。まず入口でソフトクリームを食って、軽く胃を満たしておく。そして待望の温泉だ。この湯加減が抜群。疲れた足を労うには余りある心地よさ。さらに露天風呂は白川茶のお茶風呂であった。まさに茶の湯である(ぉぃ。さすがに飲む勇気はないが、体がどっぷりと茶に浸かる贅沢感が良い。これも何時間も入っていたい湯であった。湯上りに欠かせないのが、瓶入りの牛乳である。我が家でおなじみ飛騨牛乳の、今日は「濃いんやさぁ」を買った。5日まで100円だそうであるから運が良い。二階にある休憩室で夕暮れの風に当たりながら飲む。やっぱり日帰り温泉はやめられない。せっかく白川に来たし、茶の湯にも浸かったので、「白川茶」2パックと350ccの同茶ボトルを購入。ペットボトルのほうは家路の車内でゆっくり戴く。
というわけで、ウォーキングをして山頂で弁当を食って、温泉に入ってお土産を買って、そして都市快速にもローカル列車にも乗ったし美濃赤坂線乗車も果たした。こんな充実した日帰り旅もそうあるものではない。また、移動計画がひとつも乱れなかったのも、リラックスできた要因である。息抜き以上のものがあった。