南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

台湾アミ族における、近代化と伝統の共生問題(文化人類学試験答案の要旨)

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 アミ族は、台湾東部集落地帯に居住する民族で、母系制社会を伝統としている。母系制社会では、出自は母方の親族集団に属し、相続は母から娘へとなされる。また、親族集団の中では、母方のおじが高い地位につく。おじはヴァケと呼ばれ、アミ族の祖霊崇拝祭祀において重要な役割を果たす。結婚は基本的に婿入り婚である。
 ところが、こうした親族形態や伝統は、台湾の近代化によって大きく変化を求められてきた。日本の植民地支配下における徴兵制で、他民族とかかわる中で婿入り婚文化の衰退が始まった。高等教育の浸透や都市居住が、さらにそれを加速させ、現在はほとんど見られない。
 また母系制社会そのものにも、近代化による歪みが生じてきている。たとえば、嫁入り婚の普及によって、伝統的な生活ではあり得なかった、嫁と姑の同居による摩擦がある。他家の女性を尊敬するよう教育されてこなかった嫁と、伝統的母系制社会では一家の家計を握る存在である姑の主張の食い違いは、家庭破壊につながる。また、祖霊信仰の名残から、他家の霊は悪霊という近現代では通用しない観念が新たなトラブルを生む。
 このような問題は、近代化・標準化を敵視したり、或いは伝統を極度に拒否したりする傾向に陥りやすいが、講義で事例を見る限り、アミ族の近代化吸収能力が十分でない為、起こるのだと考えられる。即ち、嫁のような近代化に接している若い世代が、伝統社会の中に持ち込む際に、理解と共存のための工夫や努力を年配者(姑)に任せきっていることが原因である。流行や標準化に適応しやすい若い世代と異なり、年配者には先ず受け入れの段階が必要なのに、早速共存から直面させられるのだ。その不満は伝統へのさらに強烈な回帰となり、母系社会での家長としての立場も相まってトラブルに発展しやすい。アミ族としてのアイデンティティを基礎に、近代的な要素を取り入れて適応していくのが、伝統の衰退も、対立も防ぐことが可能な手段なのではないか。
結:ゼミではないが、台湾繋がりで参照になると思われるので、まとめてみた。【2006/01/23/PM】