南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

汝州温泉編1:温泉(Wenquan)镇へ

はじめに

ユーチューブで温泉動画を観ていたら、河南の温泉に行かねば日本に帰れないような気分になった。この2,3日前に、温泉に実家があるという学生に連絡したところ、是非是非ということで決定はしたんだが、ちょうど天候が悪化し始めたところで日程を定めるのに苦労した。これから帰ったら帰国のフライトを決めようと思っていたので、悪天候にはまってもいけないし、あんまり遅らせてもいけない。幸いこの悪天候が9日から好転するらしいことを天気予報より確認し、着くだけ着いて温泉に入ってしまえば初日は終わりだ、と見て、この日取りとなったのである。
温泉は一泊30〜50元、开封から洛阳まで鉄路で30元(片道)、洛阳から汝州まで10元(片道)、汝州から温泉まで最悪タクシーでも40〜50元として、まぁまず150元持って、足りなければどこかで下ろせば良いだろうと。余裕があったら洛阳に戻った後、济源につないでもいいなとか。
まず、正直言ってしまえば、この日温泉鎮に到達できる自信はほとんどなかった。やっと風邪が治ったばかりで、さぁでかけようという気合に乏しかった上、汝州市までならともかく、さらに温泉鎮まで入れるか、ネットで検索した限りでは確信をもてる情報がなかった。唯一、汝州の汽车站から东车房行きのバスが温泉鎮を通るらしいことが口コミ版で書かれていて、これを信用するほかなかった。もしこれが見つからなければ、まずは一晩汝州に泊まり、翌朝から20kmくらい歩いてもいいかなと、それくらいのヤバい気持ちでいたのである。
前夜、洛阳までの切符を購入。开封から洛阳、西安など西方へ、朝出発するといえば、K617次(开封始発)が定番であるが、今回は私の気持ちを察してか、違う車次を売ってくれた。K617は直前に買っても、確実に席があっていいんだが、6時55分発は少し早すぎる。すでにこの列車は2回利用しているし、洛阳までなら2時間半程度でそんなにきつくないから、席無しでも良いから少し遅めにしてもらえたらなぁ、と思っていたところだ。早上じゃなくて上午と言ってみたのも良かったかもしれない、1131次(开封08:19発、洛阳10:43着)。同じ27元でも、私にはめっちゃ嬉しい。

洛阳まで

さて当日。朝飯はリンゴ一個。解放路まで歩いて、3路で火车站へ。久々に電光車次表示板が稼動しているが、もう十分20分前だというのに1131次の点灯はない。まだ1,2分過ぎ。もう改札が終わっちゃったってことはないだろう。かなり不安で挙動不審。が、点灯表示している車次を仔細に見て、どうやら20分余全体的に遅れが出ていることが分かった。まだ1131次の乗客を並ばせることもできないほど、遅延しているだけなのだ。しばらくして遅れも解消されてきて、1131次は10分ほど遅れて改札を行い、ホームに上がれた。このホーム上でなかなか面白い現象が起こっていた。西行きホームは4番線と5番線に挟まれているが、遅れの影響でダイヤが混雑してしまっているため、5番線が出ると同時に4番線に列車が入り、4番線が発車すると5番線に即座に入線されるという、日本の通勤時間帯のような光景が繰り広げられていたのである。違うのは停車時間が5分ほどと長いことで、おそらく間隔待ちなんだろう。本来中国の鉄道のプラットフォームは長居する場所じゃないけれども、こういうときはなんとなくゆっくりしていられる。たとえ停車位置を誤って待っていても、5分くらい停車しているから、後から走って乗車口を探せばいいのである。たまに無座でも号車指定をされることがあるから、とりあえず乗るときだけは指定に従わねばならない。乗ってしまえばどこへ移動しようが構わない、というか乗務員があっちの車両へ行けとか指示してくる。汚されるのが嫌だから。
今回も、乗車時はそこそこ混んでいたが、郑州で相当数下車し、車両を換えれば十分空席があった。爆睡に注意しつつ転寝を楽しむ。郑州で追越調整などがあったのか、30分ほど遅れて洛阳に到着。

平顶山(Pingdingshan)入境

ちょっと気障りなほど雨が降っている。足早に斜め向かいの汽车站へ。電光時刻表を眺めるが、汝州は無いように見える。乗車区には汝州の文字がある。久しぶりに汽车站を利用するので(つまり最近の旅行は本当に鉄路主体だったのね)結構戸惑ったが、バスの切符は列車よりも割りと楽に買える。ところが、今回は汝州の発音が悪くて、2回3回と言わされるうちに自信が無くなって萎えた。しかも保険を含めて19.5元にもなった。これは汝州で絶対銀行を探さねばならない。乗車後しばらくして気づいたが、开封−许昌と同様、高級車・中級車の区分があるらしい。乗車区内で汝州が幾つもある上、ターミナル外にも停泊しているのはその為だ。つまり私は高級車を買わされたのだ。えいくそ。
20元も取るのだから高速を使うのかと思いきや、何だか高速らしいなと思われつつもやっぱり国道だった。私の持ってる地図は、まだこの区間の高速は未完で計画線のように大まかに描かれている。列車ではどうしても乗り過ごしが怖くてうまく寝られなかったので、バスで爆睡。今回お世話になる学生さんには、このバスで経由する官庄で途中下車せよ、と指示があったのだが、さすがに途中乗車の経験はあっても下車のスキルはないので却下。たしかにその官庄ではいくらか乗降があった。「温泉欢迎您」とやらの横断幕もあって、あぁ入口なのだなと思わせた。それでも通過。わざとらしく「通過したよ〜」とZさんにメールしてあげる(笑)。

汝州

汝州に着いたのは午後2時から2時半だと思われ。飯屋に入って食うにはちょっと微妙な時間だなと思ったから。ここでしなければならないことは4つ。次の温泉行きのバスを見つけること、銀行でお金をおろすこと、トイレに行くこと、空腹をなだめること。さて、降り立ったのはたしかに汽车站の前だが、どうも火车站の近くではないようだ。バスの進行感覚から東西南北を見極めて南進し、初めての信号を右折すると駅に突き当たるらしい。まずは便所を求めて、これを西進し、もう一つ貨物用的なバスターミナルを見つける。っつか、普通下車したバスターミナルで便所くらいあるもんだろ、とは後で思った。でも翌日再訪するこの町の地理感をつかむには役立った。元来た道を戻って、先の汽车站に潜り込み、东车房行きのミニバスを発見する。これが十数分おきに発車して、温泉まで片道4元だそうである。ターミナルを出て更に北へ。便所と同時進行で探した銀行だったが、さすが田舎町、容易く支行が見つかるもんでもない。一応カードがあるからATMでも、というのは中国では通用しなくて、銀行あるところに初めてATMが併設されているのが普通である。それでも案外近いところに中国銀行があって、カードを使って開けるドアがあったけども、別に普通に入口を通ってATMコーナーに入ればいいのである。で、そのATMにカードを入れて少したまげた。300元からしか引き出せないのである。そ、そんな大金いらねー、一枚でいいよ。县より下の鎮に泊まるのに、ピンクを何枚も持ち歩くのは怖い。

温泉鎮まで

学生の話では4元だったけども、窓口で買うと3.5元になる。この近距離では保険もつかないから、0.5元浮かせることができる。そういえば汝州は县级市であるが、ちゃんと窓口券売が機能している。そして5元未満のクソ近距離でも窓口で売ってくれるというのは素晴らしい。さきの話によると、温泉鎮では十分以上停車時間があるので、多少寝潰れても降りそこなうことはあるまい。短い間隔での運行に見合って、乗車率は結構高い。バスは、官庄までさっきと同じ道を戻る。汝州西站と庙下ではターミナル内に進入して客引きをする。洛阳車も庙下に一時停留したので、帰路は汝州まで出なくとも庙下で乗り継げると思った。官庄の例の横幅の下をくぐると、急に道が悪くなる。官庄の集落を抜けると多少は良くなるが、それでも温泉鎮界と思しき高速道路を越えるまで、行き違いも厳しい農道がつづく。鎮北端でまとまった人が降り、緊張感が先走ってしまう。次の三叉路で、中心と見定めて下車。もう一呼吸待てばよかった。外は雨。

温泉第一日目

小雨というには鬱陶しいほどで、軒下にて一休み。見回すとたしかに「温泉旅館」の看板がちらほら。なるほどこれが温泉町か。いい雰囲気出している。春節真っ只中、訪れる者は多くないけれども、薫り漂うだけで普通の町とは異なる。暫くして、やはり私の下車した場所が尋常でないことが判明し、少し先まで歩いてみると出迎えに遭遇できる。この温泉街の旅館どれかに入るのかと思ったら、裏道をもぐって右に左に即方向が分からなくなった。後から生じた方向感覚に基づくと、およそ鎮の南東部にあたると思われる、「河南省工人温泉疗养院」。温泉療養所である。ごっつい通用門と広い庭の中に、近代的な歴史建造物にでも指定しておきたい療養施設がある。それをまた裏手から入るものだから、さらに感覚が鈍るのである。一応聞き取れるけれども、宿泊手続きと通訳は御二人にお任せする。私のようなお金持ち(じゃないぞ怒)は個室の個人風呂を勧められるが、一般の療養者は大浴場のようである。安いけれど不衛生だというようなことをZさんらは言った。とりあえず30〜50元と見積もってきたので、それ以下があったとしても質が落ちるなら選ばない。雨の滴る下を通って別棟に入り、按摩室を横切ると個室がずらりと並ぶ廊下。その一室が大体宾馆のような感じで、夜間は暖气があるそうだ。浴室には、ちょうど高齢者の入浴サービスで用いるようなバスタブがぎちぎちで収まっている。温泉は24時間OK。湯水の調節が苦手な私は少し不安を覚えたが、そんなことはおくびにも出さず手続きをしてもらう。一泊50元、2泊で100元先払い。延長するなら当日また払いにこればよいとのこと。
さきほどは広い庭があると記したが、春節であるのと元来温泉客が減少しているのとで、庭園やら食堂やら卓球場やら倶楽部やら、軒並み廃れ閑散としている。これは「庭があるから」と言って薦めるより、「閑静なところだから」で売り込んだほうがいい。食堂の営業時間も限られており、外で食事をしたほうがよさそうだ。温泉街までは徒歩圏内だし、この晩行った餃子屋は門を出てすぐのところにある。今朝のリンゴ一個から何も口にしていなかったので、ここの水餃子は格別である。が、ビールまでは余分だったかもしれない。温泉鎮にたどり着いてからは全部Zさんらに仕切ってもらった。手土産を渡してお帰りになった後は、いよいよ温泉放題開幕である。
蛇口のどっちが湯でどっちが水かすら分からん。桶底が汚いのでシャワーで軽く流してから、まず捻ったのが水。そのまま一定量水を張っておいて、待望の温泉水開放!この晩は水を多めに張りすぎて、湯を足しても足しても温さから脱却できなかったが、湯船に浸かるというだけで幸せであった。それでも満たされたお湯からは、ちゃんと温泉水の匂いがするのである。あの黄河の水を浄化しきってないような臭さではなく、懐かしい温泉の匂いである。もう感動であった。贅沢にお湯を湯船満々に湛え、ちょっとでも身体を揺らせば溢れてしまうような温泉放題。なんか子供みたいですか。前述のような特殊なバスタブなので、家の風呂ともまた違って、身体を横たえても沈まない。大浴場の常にだくだくと注がれる湯ではないけれど、独りで存分に味わえる温泉もまたいいものだなと思った。湯上りに、白湯を飲みながら地図をひろげる。明日はどこへ行こうか。さっきZさんらが汝州の名所やらを紹介していったけれども、とくに行きたいというものは無かった。午前中はこの鎮を散策して、午後はまた汝州に出てみようと思った。
つづく

(map:汝州温泉镇)