南蛇井総本気

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

济源(Jiyuan)編1:愚公移山,汤帝庙,博物馆,延庆寺塔,济渎庙

留学末期に時間の都合で行きそびれて以来ずっと温めてきた济源が、まさか河南省の地区レベル別最終到達地になろうとは思いもよらなかった。企画が具体化してから最初に逸したのは、2014年の北京発ミステリーツアー。洛阳行きの列車候補が既に満席だったことによる。省北西端に位置し、焦作と洛阳に隣接する济源。後述するローカル列車との関係から、アクセスは洛阳を優位に考えてきた。しかし黄河で隔たる洛阳と違い、焦作は地続きで嘗ては焦作の管轄域でもあった。しだいに両サイドからのアプローチ(一方通行移動)を検討するようになり、河南踏破の観点からも焦作が取り残されてきたため序でに組み込まれる形となった。本来なら「焦作‐济源編」となるべきだが、焦作はあくまでも経由地のため济源単独シリーズとなる*1
河南省で唯一の省直轄县级行政単位である济源市は、かねてより「河南の秘境」だと考えてきた。管轄の特殊性のみならず、幹線交通から外れ太行山麓の森林資源に恵まれた、荒野のオアシスのようなイメージがある。また、わがバイブル『河南交通图册』の城区詳細図には主要観光都市並みの名胜古迹が点在し、街路の名から調べるとさらに幾つかの見所が浮上する。市中を流れる川沿いには、庭園を思わせる公園が連なり休息がてら訪れたい。少し郊外に書かれた大明寺は、市区より約6㎞南の轵城镇にあることが判明。しかも周辺には祖师庙など寺廟も潜む。1泊2日かけて見て回るに足るほどの見所を集められる县级市は、河南広しといえど他にない*2
そして、今回移動時間の都合により断念した济源の魅力がもう一つある。それは洛阳-新乡間を走る普慢列车に乗れることだ。列車番号(车次)で6000番台~8000番台は最も鈍行の列車(各駅停車に限りなく近い)であり、限られた区間でしか乗車機会がない。河南では概ねこの列車1本のみだ。数年前、この列車で洛阳へ通学したという人の話がメディアに取り上げられたとかで、一時期ファンや野次馬が殺到し、連日の切符完売や満席が続いた。日本で廃線直前に撮り鉄が殺到するようなもので辟易したが、現在は沈静化している。幾度かのダイヤ変更を経て、現在は慢车自体が廃止された模様。ローカル旅情を味わいたく、济源-洛阳間を夕方運行するK269次に目をつけておいたが、到着する洛阳站と投宿する洛阳龙门站とのラッシュアワー移動を懸念し(時間に融通の利く)バスに転向した。今回火车票ネット予約に初挑戦するなか、窓口購入のワンチャンスとして残しといたトリップでもある。焦柳铁路はまたの機会に。
焦作(Jiaozuo)龙源湖よりつづく)

焦作~济源

列車の発着本数が少ない火车站は仕方ないが、市内でも有数のターミナルと思しき汽车总站でさえ他の地级市に比してあまりにも閑散としているのには正直驚いた。翌日に利用する济源の总站のほうがずっと盛況で待合室の規模もあった。20世紀初め英国人によって拓かれた炭鉱で栄えた町は、鉱山に依存しない再興を模索し始めたところなのかも。济源までは、15分間隔で15-18元と調べてある。19元で切符を買い、売店や自販機を冷かしながら待つこと待つこと。発着場の構造上、候车厅のガラス越し正面に出入りが望めるバスと、もう一列向こう側の乗り場があり両側に注意を払いながら待機。行き先プレートを目を凝らして読んでいくと、奥の乗り場に济源の文字が。しびれ切らして改札を通り、数人と乗り場で佇む。
30分以上は待たされ、やってきたのはなんと乗員10人そこそこのイヴェコ。まぁこの寂しい汽车站での需要がそんなものとはいえ、もっと密なピストン輸送が行われていると思ってきたので拍子抜け。発車直前にマイクロバスも入場してきたが、統一カラーの城际公交とかには程遠い感じだった。中国長途バスの慣例通り、道すがら方面の合う客を拾っていく。それでも満席になることだけはなかったように思う。基本的に省道らしきしっかりした道を走り、見かけた地名などから地図アプリで確認すると博爱(Bo'ai)县と沁阳(Qinyang)市は通ったようだ。後半、济源市街までは高速道路っぽかった。ていうか、昨夜の野宿のせいで途中から眠りこけてしまい、ハッと目覚めてみれば乗客はいつしか私一人に。全然土地勘ないところで打ち切られたらどうしようかと不安になったが、幸い总站に終着してくれた。
ここに於いて、河南省全地级市ならびに省直轄县级市を12年かけて踏破したことを宣言する。万歳

济源ツアー1日目

总站が町の北東端にあるので、济水大街を西へ西へずんずんと歩く。おいおい分かっていくことだが、とくに中心街は县级市としては抜群によく整備されている。東西にはしる济水大街と宣化街を軸に、二つの河川に挟まれてまとまっている。その郊外は他の都市と同様に高層住宅の建設ラッシュが進んでいる。そして、济源市の注目すべき長所は、市内公交が無料で乗れることだ*3。今回利用することはなかったが、乗降口に「免费乘车」と書かれたバスが多いのに気づき調べて分かった。日本でもよほど財政のよい自治体でしか見られず、济源の経済力の高さが窺える。
猛暑なので無理をせず、初日は市中の見所をめぐり、明日轵城(Zhicheng)镇を訪れることにする。紺字は当初予定通りの景点。

愚公移山

济水大街と宣化街の東の分岐点にある広場。ここと沁园路との間は巨大ショッピングセンターが集中する一大繁華街。
愚公移山」の故事は、河南大学の授業(テキスト)で習った。

何事も根気よく努力を続ければ、最後には成功することのたとえ。
注記
「愚公、山を移す」と読み下す。昔、中国に愚公という老人がいて、二つの山の北側に住んでいたが、家の出入りに不便なので山を移そうとした。そんなことは無理だと嘲笑する者もいたが、孫やその子の代までかかってもやり遂げると言い、山を崩しては土を運び続けた。天帝は愚公のひたむきな心に感じ、その山を他の場所に移したという説話から。

愚公移山(ぐこういざん)の意味・使い方 - 四字熟語一覧 - goo辞書
話中の「二つの山」こそ济源市域内にある太行山(北東部)と王屋山(北西部)とされ、いずれも自然豊かな景勝地である。

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愚公移山
故事では老人といわれる愚公が、筋肉隆々とした壮年男性に造られている。後方にそびえるビルは、必ずしも二つの山を意味しない。

汤帝庙

宣化街はその大部分が街路樹に覆われて陽光が遮られ、涼しくて歩きやすい。おまけに絶え間なく連ねる店々からクーラーの冷気がこぼれ、いっそう爽快にしてくれる。モール全体のなかでも、文昌路,关帝路,龙泉路との交差点付近がとくに賑やか。旧市街の中心部といったところだ。
その一角を過ぎた丁字交差点の前に、汤帝庙はある。清代に建てられ、3度にわたり修復を受けている。拝観無料。

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汤帝庙
汤帝殿を正面に4つの建物が囲むだけの小さな廟。肝心の本殿には人民が屯していて覗きづらい。このように济源の見所は総じて小粒なので、涼みながら見て回るのに好都合。
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女娲造人
人を造ったとされる女娲がとてもセクシーだったので収める。道教神話もいくぶん見慣れてきた。

博物馆

火车站に向かって、荆梁街を北へ蟒河を渡り河岸公園の一つ清趣园の前をとおり奉仙观を認めて六交口(济渎大街などの六叉路)。人っ子一人いない駅前を周ってくると、次第に雲行きが怪しくなる。沿岸部で猛威をふるう台風はここ内陸の河南でも天候を不安定にすることがある。ましてや太行山麓の济源では、山脈から降りてくる湿った空気がしばしば雷雨を起こす。コンビニの滅多にない中国で俄雨を凌げるところはないかと地図アプリで偶然見つけたのが、天坛路と蟒河の交点にある济源博物馆。
雨粒落ちるか否かで駆け込んでみれば、警備員ふくめ二三人が見守る中、これまた二三人の個人旅行者が見学している。見学無料。1階は正面の大きなレリーフとエントランスだけで、左右のホールは閉鎖中。展示場は2階にある。古代貨幣の歴史と、地元济源のあらましを貴重な遺物とパネルで陳列している。ちょうど日本各地の郷土資料館くらいの規模で、さらりと見物できる。空調が稼働しておらず蒸し暑かったり、背後から監視する係員の視線がウザかったりしたが、ほかに見学者がいたおかげであまり焦らずに済んだ。彼らは各々歴史や史跡通(マニア?)な感じで、互いに情報交換する姿も。
いつしか外はスコール、とても出歩ける状態にない。軒先で様子見ていると守衛さんが「中で待っとけ」と招き入れてくれる。エントランスに退いた、その直後だった。突風が吹きこみ保冷のビニールカーテンが音を立てて崩れ落ちた。あのまま外にいたら大惨事だったわ。降り込められた誰もが唖然としていた。こういう中国人の何気ない心遣いが結構好きである。

延庆寺塔

市内に点在する景点で唯一、鉄路の西側に位置する。ガード下付近に出来たばかりの水たまりに嵌ったり、往来する車に泥水を撥ねかけられないように細心の注意を払い、命がけで越える。ところが寺に隣接する龙潭学校への脇道は一向に見当たらず、いつしか工事フェンスが延々と続き始めた。掲示された建設計画図には、西側の龙潭生态园を拡張する公園が描かれ、仏塔も片隅に含まれる。堪りかねてフェンスの隙間から覗くと、たしかに遠目に修復中らしき塔が望める。工事現場の中じゃ仕方ないか、と諦めて戻りかけたとき、廃工場の門だと思って通り過ぎた場所に細い未舗装道路が付いているのに気づいた。これを辿ると、塔の真下に行き着ける。

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延庆寺(塔と山門)
生态园とは別にフェンスで囲われている。修繕中の足場も覆って見苦しい姿だけど、間近で見られただけでも大満足。

济渎庙

再び襲来しそうな雨雲への不安と木陰のない街路での炎天下に辟易し、今日は济渎庙で締めることにした。残り投宿までの時間は宣化街周辺を逛逛して潰す。
济源を代表する観光名所、济渎庙。同市の名の由来でもある「济水の水源」であることを示す廟である。济水はほかの河川と交わることなく海へ流れ出ており、山东省の济南や济宁といった地名に流域の面影が残る。現在は黄河が流れを変えたため、下流黄河が济水の河道である。江(長江)、河(黄河)、淮(淮河)とならぶ古代四渎(華夏四瀆)の一つ。ちなみに淮河の水源も河南省南阳市であり、桐柏县に淮渎庙がある。

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济渎庙入口
本旅初めて観覧料(30元)払ってチケットをもらう。遠方でゴロゴロと鈍い雷鳴が響くほかは静寂に包まれた境内。談笑する人民さえ居らず、気ままに拝観できる。
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济渎庙境内
ときおり木陰程度では凌ぎづらい小雨に見舞われる。そんなとき小さな亭は非常に助かる。また、山が近いだけに晴れていても適度な湿気を感じるのが济源の特徴。埃っぽく乾いた开封とは気候がわずかに違う。
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济水之源
本廟の核心。まぁ実際は王屋山の湧水だったりするのだろうけど、河流の源泉はここなのに違いない。

その他

民族路を南下すると大きな清真寺(回教寺院)がある。沿道には回族系の食品店が軒を連ねる。
龙泉路の马寨桥を渡っていると、もう一つ下流眼鏡橋状の石橋がチラッと見える。あれが博物馆のパネル展示で見た东门桥か。古代济源の自然景観を集めた「济源九景」の一つ(石桥春望)に数えられる。九景はほかに延庆寺や济渎庙も含まれる。
汤帝庙に隣接するという城隍庙。三たび近くを通るも入口を見つけられず。龙泉路側から脇道が伸びていないかとも考えたりもした。

度重なる宿泊トラブル

あまり中国は頼りない地図アプリで博物館が的中したので、ちょっと当てにしてホテルが密集すると思しき地区を探索しながら总站へ戻る。しかし昨日の焦作と同様、济源も客引きに全然貪欲さがない。飯屋やタクシーは声掛けあるも、宿の誘いは皆無。これは今宵も難航するぞ、と暗雲垂れ込める。おりしも夕暮れはとくに俄雨が頻発し、ビルの軒を借りることも。
ふと、昨日今日の飛び込み投宿は仕方ないとして、明日からは予約済みのホテルでゆっくり休めるんだよな、と予定を確かめてみる。そこで予期せぬ事態が発覚。なんと13日から2泊の予約済みだった开封の七天酒店连锁(7days Inn)が、中国大陸人民限定(外国人宿泊不可)であることが判明。Booking.comでは自動的に予約受理されてしまうのが原因らしい。猛烈な驚愕と焦りに駆られ、急いで新たなホテルの空室を調べ、锦江之星鼓楼店を確保。直前や旅道中での予約は深圳のYHなどでも経験済みだが、こうして前半戦を苦労しているだけに必死。たまたま中国ホテル事情サイトを何気なく閲覧してホント救われたが、全く本旅の宿事情は波乱すぎる。ちなみに先の7天酒店はキャンセル料の請求方法がわからないので、放置キャンセル(中国では常套手段)。
宣化街の食堂で炒拉面を食べて心身回復。济源のナイトライフはすこぶる盛大だ。まるで日本の夏祭りの中にいるよう。夜市こそ愚公桥のたもとに小さな屋台がたつだけだったが、前述の宣化街の中心部に来るとショッピングセンター前の広場に夕涼みの人だかりがあったり、夜遅くまで開いたモールを逛街していたり、大音響の屋外ライブに若者が群がっていたりする。夜市の盛んな开封と大都会上海以外で、ここまで賑やかなナイトストリートを見たことない。济源はいろいろ特異な町だと思った。
そうして夜の街を放浪した挙句、火车站までたどり着いて疲れ果て招待所に飛び込んで爆睡。大事な目的でもあるiPhone充電すら留意のゆとりなし。

济源編2:原城遗址,奉仙观,湨河へつづく)

map:济源济渎庙

*1:同時に、「济源編:焦作」の形も立場逆転のため回避

*2:汝州市は温泉を含めてこれに匹敵するかなと。実は汝州も厳密には省直轄县级市で、便宜上平顶山市が管轄している。似てるなぁ

*3:今年2月22日より施行。まだ新しい