中国語ではjinchiと読むのだけど、普通語尾がnの場合日本語でも「ん」となる法則に合わない。その読みに先ずアレッと思い、さらに新聞記事上の「きょうじ」と昨今中日辞典で調べた「jinchi」とに意味の隔たりがあるように感じた。それぞれの辞書を改めて引いてみよう。
矜持(jinchi):打ち解けない、控え目な【中日辞典】
矜持(きょう-じ):自分をすぐれたものとして、他に誇ること。誇り。きんじ。【国語例解辞典】
やはり意味が全く異なる。それぞれのニュアンスを念頭に常用しているのだ。因みに中日辞典の方には、矜の字自体の意として「いばる、偉ぶる」の項がある。多少歩み寄りを感じる。ここは漢和辞典に頼ってみよう。
矜の主な語義:1.あわれむ、2.おしむ、3.つつしむ、4.ほこる
中国語的には3で日本語的には4という訳ですな。続く熟語の項目を見ると、今回の相違の謎が解ける。
矜恃(キョウジ・キンジ)=矜負(キョウフ):自分の才能を誇り、おごりたかぶる。(注:正しくは「キョウジ」で、「キンジ」は慣用読み。)
矜持(キョウジ・キンジ):自重する。自分を慎む。
つまり恃と持では意味が異なり、前者は日本語の矜持の意、後者は中国語の意に相当する。現代日本語が、日常では馴染みの薄い「恃」を「持」に代えて、矜持を矜恃の意味で使ってしまっていることが相違を生んだのだ。矜持を本来の意味で守っている中国が正解でした。尚、さきの国語例解辞典における「きょうじ」の項には矜恃も併記されている。