ツアーバスを待つ間に朝食。马垅の市バス停留所付近には朝飯の屋台がいくつかたっている。
昨夕食べた金包银と同じく米粉で作った餃子のような半透明の食べ物。辣椒が効いている。
土楼バスツアー
観光バスは早朝の厦门市内を巡って予約客を拾っていく。とあるホテルの前では、なかなか出てこなかった中年女性の団体客が乗り込むや否や「ホテルの朝食が食べられなかった」と不平を言っていた。そんな横着な客を宥めながら仕切っていくバスガイドは、练ちゃんの友達らしい。小柄な女の子だが、マイクなしでも結構声がとおる。実は近々結婚するらしく、练ちゃんは「お祝いのビデオメッセージを作ろう」と昨日から私に持ち掛けている。そして、市内某所からもう一人友達が合流してきた。宮崎ますみ似*1の綺麗な顔立ちで、即惚れた。河南省の南阳出身で、こちらの男性と結婚している。彼女は、私が無類の馒头好きと练ちゃんから聞いて、乗車前に馒头を買ってきてくれた。蒸したてではなくて、パックされスーパーで売られているようなタイプだが、意外と本来の弾力があって美味しかった。何より初対面にも関わらずその好意と配慮が嬉しかった。
厦门のほか、漳州市内でも停車した。昼食休憩をはさみ、約3時間の道のり。中国のバスツアーってどんなものかと思っていたけど、止めどなくしゃべることはなく上手にアナウンスを入れて飽きさせず疲れさせない工夫をしている。たとえば、客家語コーナーでは郷里の言葉である练ちゃんが一番盛り上がっていた。私は一語も覚えられなかったけど、聴いていて面白かった。さすがにカラオケはやらなかった。昼食は道中の饭馆で、郷土料理というよりはごく普通の家常菜みたいなのを食べた。むしろその方がいい。
福建土楼南靖景区
福建土楼は、「福建省南東の山岳地帯にある複数階の大きな建築物で、大集団(家族)がそこで生活し、共同で防衛し、土壁と木の骨組みで創られている」と定義されている。そのほとんどが龙岩市と漳州市の山間部に点在している。2008年、世界遺産に登録された。幼い頃、月刊科学絵本『たくさんのふしぎ』で中国にそんな変わった家があることを知り、TBS番組『世界遺産』で鮮明な映像や歴史背景に接している。数ある世界遺産のなかでも比較的思い入れのあるところなので、ホント友に恵まれて千載一遇だと思う。
田螺坑土楼
さて、今回メインで訪れたのは漳州市南靖(Nanjing)县の田螺坑(Tianluokeng)土楼群。入場ゲートから、その特徴的な構成「四菜一汤」を一望できる。絶好の記念撮影スポットで混みあい、とてもキメられたものではない。
生活臭溢れる階上へあがることはできない。円い中庭では、2013年上海南翔でお土産に買ってもらった“木锤酥”*2が、ここでも落花生や胡麻などの原料を木槌で叩きながら精製・販売している。懐かしいと同時に、上海限定じゃないのかと少し残念な再会であった。今回は試食だけ。また、福建産烏龍茶の試飲もできる。同じく2013年上海で出会った旅人と一緒に専門店で存分に試飲したのを思い出し、あのとき土楼のことも店主に尋ねてみたっけ。
裕昌楼
田螺坑とは少し離れて位置する。帰国して暫く、行ったのは田螺坑土楼群だけだと思い込んでいたので、画像と地図で確認するまで裕昌楼を見たことに気づかなかった。駐車場から土楼まで民芸品屋のテントが並んでいた記憶も照合のヒントになった。
各階の柱が垂直でなく脆そうな印象を与えるが、700年もの間風雪に耐えてきた頑丈な五階建てである。
中庭の中央に祖廟のための円形土楼(观音厅)がある。
そんな福建土楼のなかでも質の高いと思われる裕昌楼はしかし、今日一日の中で一番フィーバーした場所でもあった。昨日の珍珠湾みたく、练ちゃんと2人子供のようにバカみたいにじゃれ合ってポーズとったりして、連れに撮ってもらっていた。この辺は中国式観光。文化財的価値よりも、その場を楽しむこと。
塔下村
川を挟んでカフェや民芸品店などが建ち並ぶ景観地区。
この辺りは比較的方形の土楼が多く、街に溶け込んでいる。
終始概ね晴れていたが、最後にバスへ乗り込む際は俄雨に追われてのフィナーレだった。
このほか、最初の田螺坑で博物館のようなところを見学し、概略を説明された覚えがある。博物館の学芸員を志したこともある练ちゃんは、同じツアーの女性グループに地元話を聞かせたりして上手に解説員になっていた。また、土楼群や塔下村の各所で馴染みのものを見つけては教えてくれたりしたので、やっぱり生まれ育ったところも同じ環境なんだなぁと感じた。
帰り道(南靖华禧咖啡厂)
途中休憩で、南靖县の中心地(县城)にある南靖华禧咖啡厂という日本でいえば道の駅、あるいはサービスエリアのようなところへ立ち寄る。もとはコーヒー工場とカフェだが、観光客向けにちょっとしたコーヒーミュージアムおよび専売店となっている。地元福建省産を中心とした多種多様なコーヒーの香りと味を気軽に嗜むことができる。福建といえば烏龍茶で有名だが、実はコーヒーも一大産地なのである。おそらく厦门に租界が置かれ西欧文化が流入した歴史と地理的背景から根付いた産物なのだろう。豊富な種類の粉末の缶詰がお土産用に売られていて、练ちゃんにも「家族に買ってったら」と勧められた。缶の少し凹んだのは別枠で割安になっており、まとめ買いしやすい。
この店ではコーヒー以外の特産品も販売されており、じつは日本のお茶うけに最適そうなお菓子を発見していた。今となっては内容も名称も記憶に残っていないが、その場では非常にインパクトが強くて是非とも買って帰りたいと思った。こんな田舎でも売っているのだから、アモイの駅やスーパーでも買えると思ったのが後先大きな過ちへとつながる。
ここからアモイ市内へ入るまでは、いかにも南国のスコール風な豪雨に曝され、路面も視界もすこぶる悪かった。
厦门中山路步行街
土楼見物という一つの目的の下に集った人々は、またそれぞれの旅路へと散ってゆく。日本語が分からないのに一日付き合ってくれた友達ともお別れ。练ちゃんと私は马垅へは戻らず、降り立ったのは昨日バスを待った轮渡の辺り。
来訪初日のうえに薄暗くて気づかなかったが、ここはまさに厦门租界の中心地、上海の外灘みたいな景観エリアなのだ。なかでも歩行者天国として整備された中山路は、上海の南京路にも負けぬ劣らぬ西欧式高層建築がズラリ。交錯する幾つかの筋からは、トロリーポールを立てた路面電車が今にも現れそうなノスタルジーが漂う。そして夜は華やかな照明に彩られた外資系の屋外ショッピングモールと化し、外国人観光客などで賑わう。惜しいことに昼間の土楼見物ではしゃいだ疲れがにじみ、明るさと人ごみに圧倒されていた。
とりあえず、一軒のお店で軽い夕食。ファストフードのチェーン店みたいな装いだが、実は「黄则和」という名物料理の老舗である。
落花生を軟らかく煮た甘いお粥。この食感は台湾で食べた“花生豆花”を思い出す。
五香卷は手羽先みたいなもんだが、中に骨はない。练ちゃんはあまり好きではないというけど、私はちゃんと舌を試した。
モールには小奇麗なテナントばかりでなく夜市のような屋台も出ていて、「何か食べたいものがあったら言ってください」といわれるも、练ちゃんについていくのが精一杯の有様。ただ、河南の夜市は孜然臭が主なのに対し、ここでは海鮮の匂いが漂っていた。結局アイスクリームか何かデザートを買ってもらった覚えがある。
上海と違って対岸が遠く、派手派手しい摩天楼もなく穏やか。
つづく