南蛇井総本気

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

“かえつのう”の旅<1>:万葉線

これまで幾度となく国内外を旅してきたが、自分で企画して日本海側の地へ赴いたのは初めてである。

はじめに

昨秋の上諏訪温泉があまりにも上出来だったので、これに匹敵する候補地を探すのに苦労した。東海北陸と近畿地方を徹底的に調べた挙句最終的に有力となったのは「えちぜん鉄道芦原温泉」企画だったが、その過程で温泉地ではないが富山県高岡市の旅館で非常に手ごろなのを1件キープしていた。もともと北陸地方は魅力的な中小私鉄がいくつも残っていて、学生時代に全線乗りつぶす計画を立てたことがあり、温泉という特典を外してでも行ってみたいところではあった。芦原温泉の宿泊費が曜日によっては割高だったこともあり、温泉抜きでも休養できそうな高岡を選ぶことにした。高岡市には、沿海の射水市と結ぶ地方鉄道万葉線が走っている。初日はこの万葉線沿線に遊び、2日目は高岡市内、それも春先予定だったので城址公園で花見をと考えていた。また、内陸部の上諏訪との対照で沿海部の旅先を選んだのには、海の幸を思いきり食べたいという欲求があった。
今回は日本国内旅行で初めて、メイン移動に高速バスを利用した。旅行を短期間で完結させるのには特急列車より高速バスのほうが安くて便利だと考えたからだ。近年「きときとライナー」の愛称で知名度をあげ往復料金も設定されているイルカ交通ではなく、あえて加越能バスを選んだのは、往復で100円高くても出発時刻が30分早く時間を有効に使えるから、だけではない。かつて万葉線を運営していた加越能鉄道の後継事業者という企画上のこだわりも含んでいる。旅のタイトルも「加越能の旅」としたかったが、いかにも北陸全域(加賀・能登・越前・越中)を巡ったように聞こえてしまうので、あえて平仮名とした。予約は2週間前、桜全盛の9-10日が取れなかったため急きょ一週遅らせた。ネット予約、コンビニ発券から乗車に至るまで初体験。宿も先述のキープしていた「角久旅館」と後日見つけた「大佛旅館」の間で激しい葛藤が生じた。Wi-Fi環境とか24時間入浴可とか悩みぬいて後者になった。当日の天候もかなり際どかったものの、微調整で乗り切った。

高速バスの旅

名鉄バスセンターの位置は漠然としていて、乗継の20分間で少し迷い焦った。日本国内で初めて利用する長距離高速バス。チケットは運転手に即回収され席番号を口頭でしか伝えてくれない。予約時に決まってはいるものの、控えが欲しいような。接客や運転に関してはすこぶる丁寧で親しみやすく、好感触。バスは3列独立シートで、期待した電源コンセントはなし。リクライニングは倒さず、足場を上手に探してくつろげる体勢を工夫する。名古屋の高速バスターミナルの地利は、駅を発してすぐ高速道路に入れることで、駅周辺の渋滞にほとんど影響されない。都市高速がまだ発達していない中国では、市中で要する時間が大きく悩まされたものだ。名古屋高速から名神、そして東海北陸自動車道へと進むまで経由地なし。各務原バス停で2名乗り込む。美並苅安とか郡上八幡といった長良川沿いの風景は、郡上みずの旅以来で懐かしい。天気も良く行楽客で混雑するひるがのSA*1は、当バス運転手が停車を危ぶむほどだった。この辺りになると東海北陸道も片側一車線の区間が続き、トンネルも多いので低速を強いられストレスがたまる。山間部を抜け砺波平野が開けたときはスカッとしたもんだ。そいえば、白川郷付近では世界遺産の合掌造りはチラとも見えなかったな。
東海北陸道*2から北陸道を少し走りJR城端線沿いに北進。ここで初めて知ったのだけど、城端線氷見線も単線非電化なんだね。そりゃ新幹線できたら取り残されるわけだ。砺波といえばチューリップで知られ、ちょうどこの季節寄り道していきたい衝動に駆られる。目立った渋滞こそなかったものの、予定より15分程度遅れて到着。開業したばかりの北陸新幹線新高岡駅を過ぎれば、高岡駅は目前。北側に回り込む時間がもどかしかった。車内でひと眠りする魂胆だったが一睡もできてない。

高岡駅(古城公園口)

思ったより真新しいステーションビルが構え、万葉線高岡駅停留場も施設内に収納されている。バスターミナルの下は市民の憩う地下街、「Curun TAKAOKA」内はお土産店を含むショッピングモール。しかし、万葉線の線路が伸びる駅前通りには昔ながらのアーケード街が。駅前には、万葉線の愛称の由来となった大伴家持(かつて越中国守として高岡の伏木に赴任し、のちに『万葉集』を編纂した)の像が立つ。

鮮やかなチューリップの咲く広場で昼飯。

富山はドラえもんの作者、藤子・F・不二雄氏の出身地でもあり、市中各所にドラえもんを見られる。
  ドラえもん電車
昼食中、このウィング・ウィング前のアーケード街南端付近が絶好の撮り鉄ポジションだと気づき、高岡駅発着のタイミングを計った。

本旅の最優秀作といっても過言ではない。

万葉線

このテンプスタッフ号に乗って、万葉線半日旅に出発。発車前に運転士から「万葉線海王丸セットクーポン(1000円)」を購入。アナログな両替機が不調らしく、各駅で停車するたびにせわしなくガチャガチャ弄っている若い運転士*3。この電車は吊りかけ駆動式で懐かしい喧しさを響かせながら走る。万葉線には新旧車両が混在していて、広電のグリーンムーバ―みたいな最新式の低床車両も運行している。高岡市内でも中心部は道路上でホームが一段高くなった電停が造られているが、少し郊外へ出ると歩道や路肩から駆け寄って乗降したり、路面が青く塗り分けられただけの簡素な停留所だったりしている。この点は阪堺電軌とも似ている。土休日は、新湊出身の立川志の輔の声で車内アナウンスが放送されており、帰りの高岡駅方面でアイトラムに乗った際、独特な口調の見どころ案内などを楽しめた。車窓もなかなか変化に富み、工場地帯なんかも通るしJR氷見線とのオーバークロスもある。せっかくだから全線乗っておこうと、海王丸パーク最寄りの海王丸駅を過ぎて終点の越ノ潟へ。

ここは富山新港を富山市側へ渡る県営渡船の発着場になっている。かつては富山地鉄などが同区間を鉄道で結んでいたが、新港の建設により分断された。万葉線の六渡寺から越ノ潟までの鉄道線はその名残みたいなもんだ。海がまぢかなので周りに住宅も少なく、交通の繋ぎ目だけの寂しいところ。
わぁぁぁい、日本海だ!!!

防潮堤?などで遮られるけど、遠くまで見通せる海面と静かに打ち寄せる波音はいいもんだね。実はこの左右に障害がない絵をつくるのは難しく、頭上をはしる「新湊大橋(あいの風プロムナード)」の橋脚が海岸線のそこかしこに立っていて、一歩下がれば屏風のように区切られてしまう。エレベーターで橋上にのぼれるようだが、興味なし。

海王丸パーク


公園入口付近から望む、残雪の立山連峰。画像では霞んでいるけれども、海を挟んでこんな景色が見られるなんて感動もの。右端はプロムナード。
公園は中国系の観光客などで賑わい、写真撮影に夢中。
 帆船海王丸
日本の航海練習船。現在は2代目の海王丸が活躍し、年1回だったか名古屋港にも寄港している。残念なことに、ちょうど明日が総帆展帆のイベント予定で帆を張った雄姿は見られず。甲板へ上がると、かつて航海訓練生だったらしい男性が家族と見学に来ていて面白い解説をしてくれる。ほかにも訓練用道具や通信用機器、訓練生の生活状況や海王丸に対する海外からの高い評価などを船体の随所から垣間見ることができる。別館の帆船模型なども眺めたけれど、さっきより広い海原を望むには土手を登らねばならず、眠気で身体が重いので少し早めに引揚。
尚、プリンシェイク大漁であった。
海王丸駅に入場するアイトラム

吉久

“「さまのこ」の残る町並み”と紹介されていた吉久。立川志の輔によれば、「さまのこ」とは格子戸のことだそうだ。細い運河か水路にでも沿っているのか、家並みが水面に映るような情緒ある写真が掲載されていて、ぜひ寄りたいと思っていた。
吉久はバス停のような駆け寄り型の駅。適当に目星をつけて住宅地に潜り込んでみる。ひと昔前のような家屋や商店が建ち、古い集落であることが分かる。旧街道らしい流れの道に出て暫くウロウロすると、格子戸の古民家は見つかった。

ネットの写真と全然趣が違う。門前に側溝はあるけど水路じゃない。どうやら雨の日に撮影したものらしいと分かって、ガッカリした。町並みというほども軒数がないし。いつも「降り鉄」するときはこういう旧街道を訪ねるのが楽しみなのだが、失望感は初めてだった。沿道の大きめな神社で一服してお別れ。

高岡古城公園

チェックインまで余裕があるので、翌日の予定だった古城公園を散策してみる。最寄りの急患医療センター駅は実家の地図では「本丸会館前」となっており、その方が短くて馴染みやすい。ここで本日の乗り鉄終了。
古城公園には復元天守閣などは造られておらず、堀と土塁に囲まれた普通の公園である。

築城した前田利長(利家の長男)の像。ほか、広場にいくつもの彫像が点在し、深夜に再訪したい衝動に駆られる。桜まつり期間は明日までだが、すでに粗方散ってしまい愛でる影もない。花見客や出店も疎らで、明日午前のイベントに銘打つまでもなくてよかった。

ここからチェックインまでが少し大変であった。古城公園から大仏まではサラリと辿り着き、旅館もすぐに見つかった。ところが、ちょいと小腹を満たし今宵の酒を買おうとしたら、周辺に全然コンビニがない。大都会の便利なコンビニ生活に慣れ切っている身には、高岡市中心部のコンビニの疎らさは非常に堪える。もう周辺どころか電車通りに出て坂下町から万葉線沿いにうろつき回ったものの、独立店舗はおろかアーケード街に収まってるようなコンビニすら見つけられず。人生で初めてこんなにコンビニ探しで苦労した。やっとこさ、駅前のローソンで落着したんだけども、普通に駅から旅館へ直行する人は何にも迷わずに寄れる位置関係で、全然「周辺」だった。悔しい。

大佛旅館にて

そんなわけで18時半ごろと相成ったチェックイン。通された部屋は格子の引き戸がついた二間で、意外にも風格ある構造だった。宿帳記入がてら部屋を一望。

茶菓子「江出の月」が添えられており、お土産はこれを目当てにしようと決めた。透き通るように青いゼリー状の餅に白味噌あんが挟まれた、美しく歯触りの良いお菓子だ。
「寒かったらストーブをおつけください」と女将さん。もう春なのに、とも思うも、就寝前には結構寒かった。浴衣に着替え、温泉気分で一風呂浴びて、さぁ待ちに待った夕餉の時間です。

当旅館ではきほん部屋食で、食事がすんだらお膳を廊下に出しておくよう言われた。期待どおりの海鮮御膳。刺身、甘辛ダレの煮魚、アラの味噌汁、そしてカニですよ!! 富山産コシヒカリの白飯も右下のお櫃にたくさん。食堂やお座敷もいいけれど、一人でじっくり味わえる部屋食もまたいいな。どのおかずも飯が足りないくらい美味しくて、感激しながら噛みしめた。
食後は発泡酒で晩酌しながら快楽に浸って休息。Wi-Fi使えなくてもそれほど不自由しなかった。
つづく

*1:使用期限なしの加越能バススタンプカードを配布された。片道1回で1個、7個貯まると1回分無料。

*2:富山側はあまり舗装が宜しくない

*3:結局新吉久駅?で対向電車のと交換した