南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

紀伊半島一周の旅 3:太地、新宮、熊野

紀伊半島一周の旅 2:御坊、田辺、潮岬、勝浦温泉よりつづく)

Hotel & RentaCar 660

早起きして朝風呂を愉しみ、朝食摂って出発。太地町営バスとくじらの博物館開館時刻へ合わせるには、7時過ぎの電車に乗らないといけない。朝にゆとりを持たせるべくJR以外の手段も検討したが、結局太地駅での待ち時間を含むこのパターンが最適。

太地

2駅戻って太地駅*1。特急停車駅なのに棒線ホーム。真新しい駅舎へ下りゆく階段一面に魚の絵がちりばめられ、さながら水族館の回廊のよう*2。おもに空調の効いた待合室で20分ほど町営じゅんかんバスを待つ。
乗車する便はくじらの博物館へは至らないコースなので運転手が訝り、降車停留所を指示してきた。もともと時刻表を精査してあり、開館と徒歩時間は考慮の上である。帰りも鯨を食べる店が近くにあり、博物館から歩いてくる見込み。ほんの3分ほどの短距離だが、見知らぬ土地では感覚を読み誤るのでバスを利用した方が無難。常渡(じょうど)下車。

くじら浜公園

昨日とは一変して穏やかな海。

f:id:Nanjai:20210810075456j:plainf:id:Nanjai:20210810080904j:plainf:id:Nanjai:20210810081322j:plain
森浦湾

岸に展示された捕鯨船第一京丸。手が届く位置で見るスクリューは迫力。

f:id:Nanjai:20210810080435j:plainf:id:Nanjai:20210810080651j:plain
捕鯨船「第一京丸」

海岸沿いに半島の先へ向かったら博物館入口には回り込めないことが分かり、捕鯨船のところまで戻る。ずいぶんゆっくり散策してもまだ開場する様子がないので、館の脇にそびえる浅間山を登ってみる。浅間山園地なんてただの広場だし、小高いのに眺望も良くなく時間つぶしだと引き返そうとしたとき、木立で気配を感じた。野生のシカに遭遇。これまで結構山道とか歩いているが、こんな接近は初めて。

f:id:Nanjai:20210810083319j:plain
浅間山のシカ

おわかりいただけただろうか、ちょうど中央部に写る。逃げるか向かってくるか分からないが、これ以上の接近は控える。親子らしく、子のほうは左手のやや離れた位置にいた。間もなく2頭とも飛び跳ねるように森の奥へ消えた。登った甲斐あったな。

太地町立くじらの博物館

ここも家族旅行で来たことあるらしいが一切記憶なし。全く初回のつもりで訪れる。入場料1500円、パンダよりマシだけど飼育料を負担するのか。館内を見学しながらショーの時間に合わせて随時屋外へ出る感じ。幸いクジラショーを見終えると予定の参観時間に収まるようだ。

f:id:Nanjai:20210810104801j:plainf:id:Nanjai:20210810094726j:plain
くじらの博物館

1階はクジラの骨格標本やら古式捕鯨ジオラマやらがある。昨日潮岬で荒波を浴びた鯨山見も、その役割を確かめることができた。そしてショーエリアへの通用口にはギフトショップがあるのだが、クジラ関連グッズだけでなく鯨の加工食品や地元和歌山の銘菓銘品も並んでいる。紀州土産は新宮で買うと決めてあり、ここは目星をつけるだけで済ます(のちに大誤算)。
2階はクジラの生態、3階は捕鯨の歴史と文化。伝統的捕鯨舟に描かれる文様や、西洋捕鯨法の導入に関するパネルが印象に残る。中座して見に行ったイルカショーは、各種イルカたちの生態や特徴を分かりやすく紹介しながらのパフォーマンスで、見世物の芸当っぽくしないのはさすが公営。また、クジラショーの直前に別棟資料館で「腹びれのあるバンドウイルカ」展を見学。退化した後肢が現れたとされる一連の研究や遺伝の可能性を紹介している。

f:id:Nanjai:20210810101218j:plain
入り江のクジラショーエリア

炎天下を忘れさせるダイナミックなひととき。
www.youtube.com
いい感じで腹へった。

くじら家

今日から食にはちょっとこだわる。中でも鯨肉食はJR紀勢線完乗と同格の目玉イベントといっても過言ではない。いつか鯨を食べるなら、ここ太地か千葉の和田浦と決めていた。両親が学校給食でよく食べていたと懐かしむ、鯨の竜田揚げ。今や身近にお目にかかれなくなった憧れの味である。太地町内にある、鯨料理を提供する店のなかで一番安心そうな太地 くじら家を選ぶ。
昼時にはずっと早く、一番客と思われ。ほぼ迷いなく竜田揚げ定食を所望。

f:id:Nanjai:20210810111701j:plain
鯨の竜田揚げ定食

そもそも竜田揚げを少し忘れかけていたので記憶回復。さて念願のお味は、「肉のようでもあり魚のようでもある」。サラッとして鶏レバーのような食感だが、潮の香が肉に染みてて海鮮ぽい。骨もなく一口大の揚げ物はサクッ、サクッと食べやすい。ごはんが進む優しい味。なるほど、こういうものかとしみじみ味わう。澄んだスープは、ミンククジラのさえずりの吸い物だという。さえずりとは鯨の舌のこと、イカかタコ或いは軟骨みたいな歯ざわり。ごちそうさまでした。

f:id:Nanjai:20210810114542j:plain
くじら家

新宮

f:id:Nanjai:20210810150539j:plain
新宮駅

県境ということで関門の役割を果たしているのか、本旅で最も外来者を拒絶的に感じた町。くじら博物館のギフトコーナーをスルーしてまで保留してきた和歌山土産、駅周りに店は一軒も見当たらない。近くの飲食店店頭には外来者の入店を断る掲示が。さらに観光名所の一つ、駅近くの徐福公園は閉鎖中。

f:id:Nanjai:20210810125829j:plainf:id:Nanjai:20210810125912j:plain
徐福公園

柵の隙間から内部を覗き撮り。間近で見たかったなぁ、徐福の墓。
気を取り直して世界遺産速玉神社へ向かうも、これじゃ2時間半は持て余しそうだし、お土産のことで頭がいっぱい。参道の趣ある駅前本通りを登りながらも、終始土産店を探してしまう。右手に丹鶴城(新宮城)公園がチラと見えても上の空。

f:id:Nanjai:20210810134615j:plainf:id:Nanjai:20210810133540j:plain
熊野速玉大社

世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道」に熊野古道ともに登録された、熊野速玉大社JR西日本JR東海の接続で時間調整が難しいなか、速玉大社だけは詣でられるようにした。君が代に歌われるさざれ石がある。

f:id:Nanjai:20210810133557j:plainf:id:Nanjai:20210810133646j:plain
さざれ石

境内わきの甘味処すら当てにしてしまうほど土産不安に迫られていた。
容赦ない炎天下のさなか、国道42号沿いの熊野物産神倉本店というところが紀州土産を扱っているようだと察知し、賭けて歩き出す。一番悲惨なひとときになったなぁと思いながらアスファルトを踏みしめていると、不意にスーパーで売ってないかと思い立った。さっき目についたオークワの大型店舗ならギフトコーナーがあるはずだ。裁判所前で国道に別れを告げ、途中浮島の森への誘惑に勝ちながら駅へ戻る。徐福公園の先にある新宮駅前店は小さすぎてダメ。駅前本通りの坂道から見えたオークワ仲之町店に予感的中。ギフトコーナーにはジュースやゼリーなど夏物と半々で、和歌山土産が陳列されていてマジで安堵した。限られた品数に贅沢はいえず、吟味して紀州柚子もなかで落着。ついでに食料品エリアで今夕の弁当を求める。新宮名物といえば、めはりずし。幼いころはワイドビュー南紀に酔うことを恐れ、帰宅後にしか開封できなかったはずだ。今夜の宿着は遅めなので、車中で頂くことになろう。土産では救われたが鮮魚・惣菜コーナーにめはりずしはなく、代わりに美味しそうだった鯖寿司を購入。これは軽食とし、ホテルの晩酌で補う。
ちょっと後味残念な新宮だったが、さらば和歌山。紀勢線これより先は非電化区間、電車とも暫しお別れ。どちらかというと気動車のほうが紀勢線としては馴染みある。海岸線に沿って比較的まっすぐな軌道の熊野市内。砂浜に沿って防風林があるせいか、意外と海は見えないものなんだね。

波田

18きっぷの日帰り旅で企画してあった波田須に寄っていく。トンネル目前の停留所みたいな秘境駅撮り鉄ら数人が下車。さきほど閉鎖で見学できなかった徐福の宮が近くにあるという。地図アプリを頼りに棚田の急斜面を登っていくと、眼下の入り江が絶景だ。

f:id:Nanjai:20210810162052j:plain
波田須の入り江

駅からの集落を登りきり小さな峠を越えると分岐がある。徐福宮への道標は左を指すように見えるが、地図では右のほうが正しい。暫し迷った挙句アプリを信じて進むと、新たな集落の中に祠は潜んでいた。さっき誤った道を選んでいたら40分そこらでは駅に戻れなかったろうと思うと、紙一重の判断だったな。

f:id:Nanjai:20210810163119j:plainf:id:Nanjai:20210810163035j:plain
徐福ノ宮(徐福墓)

徐福は、秦の始皇帝の命を受け不老不死の薬を求めて東方に船出し、ここ熊野(或いは新宮)の地に流れ着いたとされる。一説によれば漂着したのはこの麓の浜だとされる。往時と変わらないような熊野灘、一筋横切る紀勢線の線路、斜面に張りつく家々。美しい原風景をぼんやりと鑑賞。

f:id:Nanjai:20210810163345j:plainf:id:Nanjai:20210810163448j:plainf:id:Nanjai:20210810163859j:plain
徐福伝説の里

まさに秘境のひととき。

伊勢路

波田須の次は、母らと日帰り海水浴に2,3度来たことのある新鹿。本州太平洋岸で一番綺麗な海水浴場だと信じている。コロナ禍の影響で人影まばらの寂しげな砂浜がチラリ。つまり、これを以て確かな記憶のある紀勢線は1本に繋がった。名古屋から快速みえと紀勢線鈍行を乗り継いで片道4、5時間はかかる新鹿へ、よくまぁ日帰り海水浴に来てたもんだと今更思うわ。さぁ、この先は一応知ってる紀勢線だぜ。優雅に揺られてくだけ。
伊勢神宮熊野三山を結ぶ熊野古道伊勢路と呼ぶので、それに並行する紀勢線区間の見出しにしてみた。実際夏季休暇を利用して熊野古道を走破しているらしき人らが、道中で擦れ違ったあと偶然同じ列車で合流したらしく色々盛り上がっていた。男女ともすっかり日焼けして猛者と呼ぶに相応しい。主要街道と違って小まめに宿場がなく、現代でも宿の確保が大変らしい。紀勢線の駅ごとに区切りをつけて、宿泊先の尾鷲や熊野など主要都市に一旦戻るのが苦肉の策らしい。
不思議な進行方向となる大曽根浦では意外な方向から夕陽が差し込む。そいえば紀勢線ではワンマン後乗り前降りシステムが導入されて間もないのか、駅に停車してもボタン開閉を知らずに扉が開くのを待ってたり、降車口に駆けよっては運転士に拒まれたりする地元乗客を多く見かけた。中央線で馴染みのある私はそんなのとっくに周知だろ、と思ってしまうのだが考えてみれば先代のキハ11形はボタン開閉じゃなかったけか?
紀伊長島で海岸線を離れ山あいに至るころには日も暮れて、車窓を愉しめなくなったところで鯖寿司をいただく。駅前のデイリーも閉店品薄が見て取れ、駅舎以外ほぼ真っ暗な多気駅で30分近い乗継時間を持て余す。参宮線に乗り、波田須から実に3時間経てようやく今日の終着、伊勢市。ぎゅーとらで売れ残り惣菜と発泡酒を買い、朧な記憶を頼りに夜道を辿るとキャッスルイン伊勢。暗すぎて一つ道を間違え若干遠回りしたけど、県道にさえ出れば高層のホテルは確実に目立つ。一度正月の伊勢参りで泊まって以来、展望浴場のあるキャッスルはお気に入りとなった。一風呂浴びて一日を締める一杯。

f:id:Nanjai:20210810214206j:plain
伊勢の晩酌

ほろ酔いがてら、Sleeping with the light on…

紀伊半島一周の旅 4:伊勢志摩へつづく)

*1:本旅は一筆書きで一周するのでなく、毎日オーバーラップする

*2:逆にホームのくじら壁画は印象残らず