南蛇井総本氣

南蛇井にとらわれた言語的表現の場

大阪ぐるめぐりの旅 1:大阪城・コリアン市場・弁天町・なんば・道頓堀

大阪城天守閣

(前書き)
今回の旅には様々な目的がある。勿論親には言わない極秘なものから、大っぴらな遊びまで。まず、大阪という市であり府であるところに、南蛇井は一度も駅の外をあるいたことがないという記憶しかない。これが第一の目的だ。つまり、たまにはゆっくりと大阪見物がしたいもんじゃのう、ということだ。案外近いようで遠いような北朝鮮みたいなところなので、通過してしまったり、行くほどのところじゃないと家族から非難されるに至る程度の土地であった。お金の量や時間柄など考えて、このくらいが適切な時期だと思った。
次に、プリンシェイクの琵琶湖越えがしたい、というのが念願であった。昨年のこの日、岡山へ遠征したが見つからず、先月の近江鉄道沿線でも発見されなかった。ところが、大阪市内では、少し歩けば簡単に見つかるという情報があった。そんなら見てこようじゃないの。
第三に、大阪方面へ行くなら、学研都市線に乗りたい、という夢があった。これをさらに繋いで東西線福知山線(宝塚線)と共に、例の事故現場を見てこようという計画も盛り込んだ。
第四に、小説『道頓堀川』の舞台を歩いてみたいというのがあった。ところがコイツは情報が少なかった。それで、小説を熟読して背景を徹底して掴んでおくしかなかった。
他にも、弁天町の交通科学博物館、鶴橋の高麗市場、北新地、大仙古墳など外せないものが多すぎて、これを巧くJR沿線を中心に阪堺電軌とか地下鉄にも乗れるよう組み合わせるのが難しかった。
さて、実際は目的がどうなったか?

出だし

まず8時12分大垣発米原行き普通電車によって、計画は大幅にぶっ壊された。近江長岡駅の大雪によるポイント切り替え不能により、手前柏原駅で約40分停車してしまったのだ。さすが関ヶ原越え。この地域は岐阜市内の様子からは、とても想像できないほど大雪吹雪で、電車とて容易に越えられない。しかもこの電車、大垣からの乗換で1両目だけ満員混雑。わしはその1両目先頭で、文字通り立ち往生していた。旅するミュージシャンぽい学生が、何やら詩的にこの様を表現していたが、それはそれで気を紛らす程度になった。勿論米原で新快速に乗り継げるわけなく、それでもこの遅延は考慮された普通電車播州赤穂行き(野洲からは新快速)に乗って西へ向かうも、また絶句の混雑。さらに京都駅で、湖西線を経由してきたサンダーバードの発車遅れによって、その後を行くことになる新快速が遅らされていく。結局大阪に着いたのは、当初計画より1時間余り遅れてのことだった。

大阪城

北新地を諦め、即大阪環状線に乗換、森ノ宮でやっと4時間以上のJR内から解放される。あれっ?森ノ宮って高速通ってたっけ?何だか地図などで見てきたイメージと違った森ノ宮駅。大阪城公園で降りても良かったが、一応地図を見る限り、森ノ宮のほうが近そうに感じたのと歩きやすそうだった。が、やはりここは日本第二の都会。ビニールハウス居住者の天国でありました大阪城公園。そして高層ビルに囲まれた中世建築の天守閣が何とも名古屋城より異質でありました。天守閣前で熱々のジャンボフランクを頬張って、口内大火傷で皮までめくれたが痛みをこらえて入城。城内は大阪市博物館の近代的な建物と、天守閣。天守内は冷暖房完備の徹底管理された歴史展示。主に秀吉の天下統一と大阪城がテーマで、歴史的な観光名所の少ない大阪ではこれくらいあると結構有難い。外国人観光客がもっとも多かったスポット。ただ、さっきの電車の遅れで、何かと時間とお腹が気になる。北新地を省いても、一日の時間割は崩れてしまっている。弱冠急ぎ足になってしまう。今回は母親からデジカメを貸してもらっていたので、南蛇井自分の手で撮る最初の一枚は大阪城となった。そしてこれが絶品だったので、帰宅後即デスクトップに飾られました。

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大阪城

高麗市場

環状線を2駅乗って、鶴橋。ここはガイドブックで初めて知って、ホント来たかった。とにかくゴチャゴチャしていて、盛況で猥雑で、商品が所狭しとあって、威勢のよさと熱気とその場の空気で裁かれる売買と、何ていうか表現しにくい市場のイメージ。それがここにあった。2月に行く台湾の前哨戦にしようと思っていた、アジアの雰囲気遊び。そして、大阪といえば生野などに住むといわれる在日コリアンの存在。これをどこかで味わいたかった。これは大阪に対する南蛇井の長年のイメージでもあった。だから鶴橋は逃せない。だが、言葉は分かるにしても、売ってるものが余りにも見慣れない。チヂミくらいはコンビ二にも登場したが、それ以外はチンプンカンプン。しかし、ここが勝負の為所だと思って、思い切ってチヂミの隣に並ぶホッペというお好み焼き風の食べ物を買った。こいつはホルモン入りお好み焼きで、その場で焼いてソースをぶっ掛けてくれる。激旨。これで足りる。食いながら、全ストリートを右往左往。肉・魚・調味料・衣類・菓子・金物から何から、華やかに売りまくられている。真っ赤なキムチの山。港でしか味わえないような、ムッとする生魚の臭い。餅か団子か分からない、妙な食べ物の加工場。威勢のいいおばさんと客の声。地図がないので(どこか壁には貼ってあったかな)、いつの間にか同じ道を廻っていたり、全く方向が分からなくなることもしばしば。買わないでも、味見はどんどんできるし、何時間いても飽きない気がする。もう少し食べ足したくなって、目をつけていたあるたこ焼き店に戻ってきたら、閉まっていた。んで、その近くのチヂミ屋で、ニラチヂミを注文して、狭いカウンターで食べた。背中すれすれを人が通るので、落ち着かないといえばそうなのだけど、座って食うと味わいが違うなぁ、とか思った。その後、写真を撮りに、雰囲気の出ている場所を探したのだが、とにかく年末で人が多くて、チャンスが掴みにくい。かなり時間をかけた。明日の帰路前に、もう一度寄ることにして、ひとまず次の目的地へ。

大阪市交通科学博物館

煩雑な市場でお腹と心を満たし、ふたたび環状線に。天王寺で乗り換えて、大阪ドームを眺めつつ、さらに右に回ること3,4駅。弁天町駅で下車。大阪でUSJ以上に外せないのが、大阪交通科学博物館。駅高架下にある同博物館には、鉄道の発展の歴史を中心に、乗り物一般にわたる展示まであり、広い年代が楽しめる。造りがだいぶ古くて、表向きやエントランスホールは、何となく「公営」的な雰囲気がする。時折、というよりはかなり頻繁に通過する電車の音を頭上に聞きながら、細長い館内を回る。初期の駅舎や、電車の実物(一部)がそのまま館内にある。しかしなぁ、どこの科学館もそうだけど、そろそろ館自体がレトロっぽくなってきたよなぁ。内容が最新でも10年くらい経っていたり、シミュレーションもほとんど無い展示とか。そういう点は別とすると、とても楽しい。そして、一番の目的は、最後にあった。スバル360。車体を浮かせるために、後輪が微妙に歪んでいたけれど、このクルマの実物を見られる場所はなかなかない。交通科学館といえど、メインは鉄道だから、クルマはラストにしかない。大型バスまでが屋内展示されている空間では、やはり小さく見える。ここまでくると若干時間が無かったが、間近でとくと眺めた。あと、屋外には蒸気機関車1両と列車が二両展示されている。閉館間際だったが、カメラを向けてみた。このとき夜景モードで試してみたのが仇となって、意外と周りが電燈などで明るく、変に反射して醜くなってしまった。

ネオンの道頓堀

弁天町から、今度は地下鉄。帰宅するサラリーマンで、相当混雑していた。地下鉄といっても、この線はほとんどの区間が地上。高速道路の間を走る高架電車だ。一体なんだ、これは、と心配になっているうちに、突然地下に入って本町駅。混雑の中、御堂筋線へ。そしてミナミの中心、なんばに降り立つ。
お腹は確かに空いてるけど、しばし歩いてみよう。ここでちょっとした企画がある。宮本輝の小説『道頓堀川』の初めのほうに、こんな行がある。

「戎橋の次が道頓堀橋、その次が新戎橋、それから大黒橋に深里橋や。ほんでから住吉橋に西道頓堀橋、幸橋となるんやけど、その辺の橋に立って道頓堀をながめてると、人間にとっていったい何が大望で、何が小望かが判ってくるなァ」
邦彦は真鍮製のロックを外してガラス窓をあけ、顔を突き出して川下を見つめた。そこからはせいぜい道頓堀橋の欄干ぐらいしか見えないのである。
「とにかく、道頓堀が、何やしらんネオンサインのいっぱい灯ってる無人島みたいに見えるんや。ああ、俺はあんなところで生きてたんかて、しみじみ考え込んだよ。邦ちゃんも、いっぺん幸橋の上から道頓堀をながめてみたらええ。昼間はあかんでェ、夜や、それもいちばん賑やかな、盛りの時間や」
「そこからこっちをながめたら、いろんなことが判ってくるわけやな?」
「そうや、いろんなことや。花が咲いたり散ったり、夕陽が沈んだり星が光ったりするのを見てるよりも、もっと電撃的啓示を受けるわけや」

ながめてみようと思った。なんばを、敢えてこの時間帯にしたのは、この企画と夕飯のためだ。地下街を出て、道頓堀橋を北へ渡ると、タクシー群が乱れている。西へ入ってしばらく歩く。両脇は風俗店と飲食店が立ち並び、いかにも怪しげでけばけばしている。まさに道頓堀の華にみえる部分だ。夕飯の目当ての店は日本橋寄りなので、あんまり西へは行けない。二つほど橋を過ぎたところで、道頓堀川に戻る。(後で調べたところ、大黒橋だったらしい。)昔はあったかどうか知らないが、今は深里橋の上に大阪都市高速が通っている。だから、深里より西へ行くと、道頓堀が見えにくいと思ったのだ。
レンガ造り風の、妙にアーチのきつい橋で、登るのに苦労した。アーチのてっぺんに、ちょっとした憩いの場がある。そこから、いよいよ道頓堀を眺める。私は夜の街に生きる人じゃないから、小説の主人公のような感じ方はできない。ただ、この一本の川を挟んだネオンの街を、自分の生活空間に見立てれば、自分もちっぽけな世界に必死で体を泳がせているような気がしてくる。たまにカップルが立ち止まりつつ、渡っていく。もっと落ち着ける時なら、ゆっくり哲学ができるだろう。

渇鈍

外から道頓堀をながめたら、今度はその真っ只中に飛び込んでみよう。もと来た道を戻り、左岸側から街の中へ。あの道頓堀の象徴、かに道楽や「食いだおれおじさん」を撮る。さすが天下の道頓堀だけあって、観光も夜遊びもお祭りも、とにかく人出はすごい。そして、至るところでたこ焼きとお好み焼きを売っている。そういえば、たこ焼きをまだ食ってない。お好み焼きは、私的には大阪のイメージじゃないので、別に食べたいとも思わなかったが。せっかく来たんだから、かにでも食おうか、などと覗きながら、うろうろしてみる。
が、目的の店を探すことにした。とはいっても、所在地を正確に知らない。それらしいところを歩いてみたが、判らない。ついに、日本橋近くのローソンに入って、レジャー情報誌をめくってみる。幸い、これに載っていた。さすが名店。しかし、日本橋ってことは、地下鉄一駅分来ちゃったわけか。やれやれ。
法善寺横丁という、会社あがりのサラリーマンが飲みに来る店が集まる一角。横丁というだけあって、人のすれ違うのがちょうど、というぐらい狭い石畳の道が入り組んでいる。その、やや西よりと思われる。カツ丼の名店、その名も渇鈍、はあった。入り口も店内も狭く、カウンター10席程度。しかも営業時間帯が、夕飯時の2,3時間くらいに限られていて、個性的だ。入ったときの感触では、混雑のピークを過ぎた後らしかった。客は3,4人だった。道に迷ったのが、ベストタイミングにつながったのかもしれない。カツを揚げてカットする手さばきのよい親父さんに、カツ丼を注文するのに、しばし間を要した。どことなく飲み屋だな、という抵抗感があった。
軽い吸い物と漬物つきで登場。ここのカツ丼は、一般的なカツ丼と大きく異なる点がある。それは、ご飯とカツが別皿で出されるのだ。カツのソースがご飯に染みてしまわない為の処置なのだ、とガイドブックには書いてあった。いやソースというか、タレだ。カツがどっぷりとタレに浸かっている。これを一切れずつご飯に載せて、食べていく。なかなか活かした趣向だ。
んで、旨いんだ、これが。旅先でカツ丼を食べることは良くあるけれども、味も趣向も何時のよりすばらしい。お野菜が少ないのが若干傷だが、量・質ともグッド。ご馳走様でした。

なんばウォーク

法善寺横丁を歩いてみた。渇鈍のスグ裏に、夫婦善哉がある。芝居や映画の舞台となったらしい、このスポットには観光客や修学旅行らしい学生が集まっている。水掛不動尊と法善寺を入れて写真を撮ろうと思ったが、なかなか人が横切ったりしてうまくタイミングをつかめない。今になって検索してみると、「ぜんざい」が名物なのらしい。あんまり調べないで行ったので、少々損をしている。

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法善寺横丁と道頓堀川

再び、道頓堀川に出て、相合橋から川面に映るネオンを撮ってみる。リバーウォークを歩きながら、遊覧船を眺めたりして、夜の一番盛りの道頓堀に浸る。
今度は南側へ渡って、千日前アーケード街を歩く。20時近くなので、ほとんどの商店は閉まっているが、それでも人通りは絶えず、雰囲気は楽しめる。ガイドブックをよくよく見て覚えておかなかったので、南海なんば駅の東側にあるらしい「日本一おいしいたこ焼き屋」とかいうところに行けなかった。近くの本屋で、載ってそうな本を探したが、これは無理だった。どこにあったんだろうな?
20時を過ぎるとチェックインしづらいので、ぼちぼち宿に向かう。地下にあるJRなんば駅を見つけ、たどり着くのに、迷って時間を要した。外観が駅らしくない建物の地下にあって、位置的にはこの辺りなんだけど、という憶測で入っていくしかない。15分くらい彷徨った。

大阪市立長居YH

JRで行き止まりの駅から乗車するのは珍しい。車止めじゃなくて、奥が車庫か何かになっているらしかった。本数が多く、間もなく発車。天王寺で乗り換え、阪和線。鶴ヶ丘下車。これで初日のJRは終わり。
今夜泊まるYHは、大阪長居公園長居スタジアム内にあり、試合観戦客も多く泊まるらしい。同スタジアムは、セレッソ大阪の本拠地でもある。元々は、大阪万博の年に開館し、現在に至るのだそうだ。
さすが、市営といえども、スタジアムの施設だけあって、大変整備されている。ドミトリー4人部屋がつらつらと並び、球場の形に滑らかにカーブした廊下が続く。ドームでバイトしているので、この雰囲気は慣れている。
今夜は、長居運動公園に合宿練習をしにきたらしい、少年サッカークラブの連中と同泊だ。部屋は違うけれど、入浴の際にもろに出くわし、覚悟していたが騒々しかった。しかし、彼らは実に環境のいいところで練習ができるもんだ、と思った。こういう連中には、ロケーションのいいYHである。
もちろん、大阪市内4箇所あるYHの中から、敢えてここを選んだのは、二日間の行動を考えて最適だったからである。明日は一旦阪和線を南下し、大仙に向かう。ちょうど良い中継点である。
パジャマを忘れたことに気づくが、1泊なので普段着のままでも抵抗がない。それでは、また明日。
つづく